サヨナラのために
「神野先輩」
声に、振り返って驚く。
「佐々木、さん」
もう二度と話すことなんてないと思っていたのに。
「お久しぶりです」
鋭い視線に、私は目を合わせないようにして微笑む。
「なんで、こんなとこにいるんですか」
「なんでって…卒業式だし」
こんなに強い口調の佐々木さんは初めてで、発する声が弱々しくなる。
「岡本先輩、今日引っ越すんですよ。卒業式が終わる頃には、もういませんよ」
「…そうなんだ、でも、私には関係ないことだから」
言い終わらないうちに、突然襟元を掴まれ、熱い衝撃が頬を走った。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
叩かれたんだ、と他人事のように思って、顔を正面に戻すと、佐々木さんは泣いていた。
「本当に、最悪っ…クズ女!」
でも、前のように怯えて流すんじゃない、意志を持った涙だ。
「勝手に振り回して、飽きたからポイ捨て?岡本先輩の気持ち考えてよっ!なんであんたみたいなバカ女が岡本先輩の幼なじみなの!?どうでもいいなら近付かないでよ!」
「どうでもよくなんかない!」
自分で自分の声の大きさに驚く。
でも、許せなかった。
声を荒げずにいられなかった。
確かに私は、バカ女だけど。
クズで、最低で、最悪だけど。
「あんたなんかに何がわかんのよ!幼なじみじゃなくて、ちゃんと女の子で、好きって素直に伝えられる、あなたになんて…」
なんで。
今更、泣きそうになっても。
もう、遅いのに。