サヨナラのために
平日の昼間の駅は空いていた。
急いで改札を抜けて、感覚がなくなりそうな足を奮い立たせて階段を駆け上る。
間に合って、お願い。
今、言わなきゃ。
たぶんもう、一生会えない。
ホームに出て、電車が来ていることに気づいた。
停車時間は、3分。
「…っせいや、どこ?」
「…美羽?」
振り返ると、目を見開いてこちらを向いて、誠也が電車の中に立っていた。
「なんで、ここに…卒業式は?」
久しぶりの声。
久しぶりに見る、あなたの顔。
私は力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「美羽っ」
「私」
駆け寄ってこようとする誠也を止めるように、私は叫ぶ。
思い切って出したつもりの声は、か弱く地面に落ちた。
「誠也に、言わなきゃいけないことがあるの」
怖い。
でも。
もう、逃げないから。
ゆっくりと顔を上げて、誠也の瞳を見つめる。
真っ直ぐで、その真っ直ぐさが少しだけ苦手だった。
「…私、幸せだった」
幸せになりたい、なんて。
そんなの、嘘だ。
「誠也といるときが、どんな瞬間よりも、幸せなの。人生で、一番っ…」
声が震えて、涙が頬を伝う。
早く言わなきゃ、なのに。
「優しいあなたを、たくさん傷つけてごめんなさい。許してなんて言わない。でも、私は…」
「美羽、ごめん」
ホームと電車を挟んで、誠也の手が伸びてくる。
そっと、私の熱い雫に触れた。