サヨナラのために
「好きな人、いないんですか」
しつこいな、と思いつつも「いるよ」とはっきり言う。
「え…じゃあなんで」
「絶対に叶わない恋だから。それでも一生好きって決めたの」
目を閉じれば今でも思い出せる。
君と過ごした、たくさんの日々。
寝癖も、鼻梁も、表情も。
私の体に残された温もりも。
全部、なに一つ欠けることなく覚えている。
「俺、二番でもいいです」
グッと手を掴まれ、向き合わされる。
「それでも、誰よりも美羽先輩を幸せにします」
真っ直ぐだ。
どうしようもなく真っ直ぐで。
「ありがとう。でも、ごめんね」
そっと腕を解いて、ほら、行くよ、と声をかけてビルを出る。
それでもやっぱり、わたしには。