サヨナラのために
「おじゃまします」
誰もいない家に、私の声がポツリと落ちる。
うちも誠也の家も共働きだから、こういうことは昔からある。
「どんだけ信用されてんのよ、私たち」
自分の子供たちが裏切ってるなんて、知らないんだろうな。
肉じゃがをリビングに置いて、家から持ち出した食材と、誠也の家の冷蔵庫から適当に材料を見繕って、野菜炒めとお味噌汁を作る。
明日の朝、食べれるように少し多めに。
時計を見るともう7時だった。
いつもならもうそろそろ帰ってくるんだけどな。
リビングを出て、階段を上る。
上ってすぐのところにあるのが、誠也の部屋。
開けて、電気をつける。
「…誠也の匂いだ」
って、当たり前だけど。