サヨナラのために


誠也の触り方はずるい。


恥ずかしくて、もどかしくて、知らない声が出る。


「も、う、やだ…」


「なんで?」


あと、誠也は少しだけ優しくなくなる。


顔が近づいてきて、私は思わず逸らす。


「…キスはだめ」


「分かってる」


うつ伏せにされて、ゆっくりと背中にキスが落ちてくる。


「…やっ」


1つになる感覚にも、もう慣れてしまった。


「…っ、なんか、今日すごい」


「な、にそれ、しらないっ…ばか」


思考がうまくできなくなるから、こうしてるときだけ忘れることができる。


いろんな感情も、葛藤も、嫉妬も。


愛されてるという錯覚に浸ることができる。


偽りの幸せだって、いい。

< 28 / 153 >

この作品をシェア

pagetop