サヨナラのために
それだけ言うと、誠也は目を細めて明らかに不満そうな顔をした。
「美羽に来て欲しいんだけど」
「んー、分かった、見に行く」
「一番前で、応援してくれる?」
「それは無理」
誠也の目を見ずに、私はピシャリと言い放つ。
「なんでまたそういうこと言うんだよ!この前来た時だって気づかないうちに帰っちゃって…」
「ちゃんと見に行ったし、応援だってしてる!」
誠也は知らないと思うけど。
図書室の窓から、練習だってこっそり見てる。
絶対、誰よりも応援してる。
目に見えなくても。それは絶対に、譲らない。
唯一私が純粋に、あなたを好きだと証明できるものだから。
「他の女の子たちがたくさん応援してくれるでしょ?」
「またそうやって美羽は他と比べる」
腕を引かれて、誠也に向き合わされる。
「俺が美羽に来て欲しいって思ってるってだけじゃ、美羽が胸を張れる理由にならないの?」
胸が、締め付けられる。
なるよって言えたら、どれだけいいだろう。
あなたの1番にしてって言えたら、どんなに楽だろう。
「誠也のこと応援に来てくれてる女の子は、みんな本気で誠也のことが好きなんだよ。そんな中で、私が胸張ったらダメだよ」
だって、私たちは恋人じゃない。
誠也は、私をこの先世界で一番にはしてくれないから。
「ほら、行こ?」
私はそっと誠也の手をつないで、歩く。
「…このまま学校まで繋いでくれたら許す」
「もう!なんでそうやって無理なことばっかり言うの!」
「ばーか、絶対離さないからな」
いつもの無邪気な笑顔で、誠也はぎゅっと手に力を込める。
それだけで、ドキドキする。
幸せだなって、心の底から思う。