サヨナラのために


それだけ言うと、誠也は目を細めて明らかに不満そうな顔をした。


「美羽に来て欲しいんだけど」


「んー、分かった、見に行く」


「一番前で、応援してくれる?」


「それは無理」


誠也の目を見ずに、私はピシャリと言い放つ。


「なんでまたそういうこと言うんだよ!この前来た時だって気づかないうちに帰っちゃって…」


「ちゃんと見に行ったし、応援だってしてる!」


誠也は知らないと思うけど。


図書室の窓から、練習だってこっそり見てる。


絶対、誰よりも応援してる。


目に見えなくても。それは絶対に、譲らない。


唯一私が純粋に、あなたを好きだと証明できるものだから。


「他の女の子たちがたくさん応援してくれるでしょ?」


「またそうやって美羽は他と比べる」


腕を引かれて、誠也に向き合わされる。


「俺が美羽に来て欲しいって思ってるってだけじゃ、美羽が胸を張れる理由にならないの?」


胸が、締め付けられる。


なるよって言えたら、どれだけいいだろう。


あなたの1番にしてって言えたら、どんなに楽だろう。


「誠也のこと応援に来てくれてる女の子は、みんな本気で誠也のことが好きなんだよ。そんな中で、私が胸張ったらダメだよ」


だって、私たちは恋人じゃない。


誠也は、私をこの先世界で一番にはしてくれないから。


「ほら、行こ?」


私はそっと誠也の手をつないで、歩く。


「…このまま学校まで繋いでくれたら許す」


「もう!なんでそうやって無理なことばっかり言うの!」


「ばーか、絶対離さないからな」


いつもの無邪気な笑顔で、誠也はぎゅっと手に力を込める。


それだけで、ドキドキする。


幸せだなって、心の底から思う。

< 33 / 153 >

この作品をシェア

pagetop