サヨナラのために


「岡本先輩!」


ハッとして、私は気づいたら手を離していた。


「おはよ、佐々木さん」


「おはようございます!」


目があって、お辞儀をされる。


彼女の誠也を見る目が熱くて、私は自分の体温がスッと下がるのを他人事のように感じた。


「珍しいな、朝会うなんて」


「先輩に、会えるかなって思って」


頬を染めながらそう言う彼女は、私とは正反対で。


すごく、可愛くて。


「この前の映画…」


「誠也、先行くね」


私は微笑んで、そのまま歩く。


名前を呼ばれたけど、振り向かなかった。


悲しいなんて思わない。


嫉妬なんて、しない。できない。






だって、間違ってるのは私と誠也の方だから。





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