サヨナラのために
校舎に囲まれるようにしてできた中庭のベンチに、並んで腰掛ける。
「…誠也のこと?」
そう聞くと、彼女はコクコクと首を縦に降る。
「あの、この前先輩試合みにきてましまよね?」
「あ、うん…行った」
「岡本先輩、色んな女の子たちから差し入れもらってたんですけど、俺はもうお腹いっぱいだからって部員で分けたんですけど…」
純粋な目が、私をまっすぐに見つめる。
「神野先輩の差し入れのことですよね?どんな差し入れしたんですか!?やっぱり、岡本先輩の好物ですか!?」
佐々木さんの勢いに私は面食らう。
「いや…言うのも恥ずかしいくらいの差し入れだから、ほんと、参考とかにはならないっていうか…」
「あの、じゃあせめて岡本先輩の好きなものとか教えていただけたら…」
頬を赤らめて俯く彼女が、なんだか遠い。
「…ほんとに好きなんだね、誠也のこと」
「…はい。振られといて、しつこい女だってことは分かってるんです…。でも、岡本先輩が嬉しいよって言ってくれて。お世辞でも、すごく嬉しくて…」
自分に一途なかわいい後輩。あの誠也が、悪い気なんて、するわけない。
「本心だと思うよ?えっと、好きなもの、だったよね?」
私の言葉に、佐々木さんはメモ帳を開いて準備する。
「うーん、基本的になんでも好きなんだけど…意外と甘党かも。お菓子系は喜ぶと思うよ。普段は恥ずかしくて買えないけど、マカロン好きって言ってた気がする。ご飯とかでいうと王道だけどハンバーグとか。トマトソースでチーズ入ってるのとか好きだよ」
思いつく限りをとりあえず口に出す。
「って感じかな…参考になる?」
「はいっすごく!…やっぱり、なんでも知ってるんですね、岡本先輩のこと」
笑顔に、少しだけ悲しそうな表情が見えた気がして。
「…小学生の時から一緒だからさ、嫌でも色々知っちゃうの。全然、そういうんじゃないからね。」
「あっ…すみません、そんなつもりじゃ…」
「ううん、嫌だよね、好きな人の幼馴染とか。私も、色々気をつける」
すみません、と何度も繰り返す佐々木さんに、胸が痛くなる。
謝らなきゃいけないのは私の方だよ。
そういうんじゃない、なんて嘘ついて。
誰にも言えない関係を抱えて。
いつから私、こんなに醜くなったの?