サヨナラのために
「アンタさ、彼女なの?誠也くんの」
「…ち、がいます」
泣きながらも、佐々木さんはしっかりした声で言い返す。
「なんか頑張ってるみたいだけど?勘違いしないほうがいいんじゃない?」
「誠也くん、誰にでも優しいから。鬱陶しくても、言えないんだよ」
分かる?
恐怖で震えながらも、佐々木さんは謝ったりはしなかった。
「ていうかさ、振られてるんでしょ?」
「ほんと、神経疑うわ。惨めだと思わないの?」
グッと心臓が押された気がした。
「かわいそう、一年」「ね、やりすぎだよね」
ひそひそと交わされる会話が、耳に飛び込んでくる。
「でもさ、ちょっとだけいい気味だよね」
体がカッと熱くなって、気がついたら、足を踏み出していた。
「ねえ、邪魔なんだけど」
シン、と廊下が静まり返る。
佐々木さんが、涙で潤んだ綺麗な瞳を、大きく開いてこちらを見る。
でも、それに気づかないフリをして、私は冷たい目線を投げかけた。
「見苦しいから、こういうことやめたら?」