サヨナラのために
『でもさ、ちょっとだけいい気味だよね』
あのとき、耳に飛び込んできた声に、体を貫かれた気がした。
私、あのとき、どう思った?
…自分の心が、見透かされた気がした。
見苦しい、なんて言っておいて。
…あれは、自分への言葉だ。
「美羽」
声に、足が止まる。
無視して歩けばいいのに、体が、動かない。
…やだ、来ないで。
「美羽」
すぐ後ろで声がして、腕を優しく引かれる。
チャイムが鳴って、生徒たちがバタバタと各々の教室へ向かう。
「…鳴った、から」
振り払おうと腕を引いても、誠也は離してくれない。
「ねえ」
バタバタと走りながら私の横を通った同じクラスの生徒に、誠也が突然声をかける。
驚くその女の子に、「神野さん、体調悪いみたいだから保健室に連れてくって、先生に言ってもらえる?」と言って、誠也はそのまま階段を下りていく。