サヨナラのために
再び静かな空間が戻ってくる。
「いやあ、ありがと、黙っててくれて」
それも束の間、ケラケラと笑いながらタカヒロと呼ばれていたその人は小さな教卓からひょっこり出てきた。
「隠れていた理由は?場合によっては叫んでさっきの人たち呼び戻しますけど」
「いやいやいや!俺はやりたくないって言ったんだけど、クラスの劇の主役を無理やりやらされそうになってさ。俺に非はないでしょ?」
人懐っこい笑顔でそう言ってから、私が色を塗っている看板に目をやる。
「わー、これを1人で?すごいなあ」
「そうです大変なんです、だから邪魔しないでください」
せっかくやる気が出ていたのに、なんだかペースを乱されてしまった。
「ねーねー、君、名前は?」
声が突然近くなって、思わず私は後ずさる。
さっきまであったはずの距離が、今は完全に詰められてしまっている。