サヨナラのために


この人に、剥がされる。


私の仮面が、剥がされる。


「…寂しいですよ。悲しいんです、本当は、けっこう」


目が潤みそうになるのをグッと体に力を入れて耐える。


「でも、ちょっとだけ、希望はあります。…もし、生まれ変わることができて、もう一度、出会えたら、今度こそはちゃんと素直になろうって。普通の恋をしようって、そう思ったら、少しだけ、楽になれます」


笑って、私は絵具を塗る。


誰かの前で泣きそうになるのなんて、いつぶりだろうか。


「美羽ちゃん」


先輩の優しい声に、私は顔を上げることができない。


「俺の初恋の相手は、近所のお姉さんだった。本当に大好きで、俺が大人になったら、いつかって、思ってた」


伏せられた先輩の長い睫毛をそっと見る。


「でも、俺が中学の時に結婚しちゃった。本当にアッサリ、終わった。子供の俺にはどうすることもできなくて、何かを言うことすらできなかった」

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