夏の虫

彼の部屋で帰りを待っていた

今日は外回りから直帰だから早く帰るって言ってたし、そうは言っても夕飯は済ませて帰るのはいつものことだし

だから鍵を回す音が、いつもより大きく無駄にガチャガチャと鳴ってても、急いで帰ってくれたのかなとしか思わず

『そんなに慌てなくてもちゃんと待ってるのに』

口元を綻ばせて玄関に向かう心は浮き立ち―――
扉が開いた瞬間、奈落へ突き落とされた

彼は私の知らぬ女の腰に腕を回したまま後ろ手に鍵を閉め、鞄を床に落とすと噛みつく勢いで口づける

私はショックで打ちのめされながらも、すぐに寝室に隠れ―――すぐさま後悔した

案の定、彼はキスしたまま彼女を抱え上げ、ベッドにもつれるようになだれ込む
それから服を脱ぐのももどかしいとばかりに体をまさぐり、繋がって、互いを貪り合った


すぐそばにいる私には気づくことなく、目の前で夢中で愛し合う二人を、私は見ていることしかできなかった……






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