夏の虫
そっと離れると、何かを感じ取ったのか、彼はおもむろに私のつけた痕へ手を伸ばした
最初は指先で擦るように、やがて爪で引っ掻くようにしてそこに触れている
ああ、そんなにしたらますます痕が大きくなるわ
あとで困るのは貴方なのに、しようのない人……
私は大きくなったお腹を抱え、次第に眉根を寄せながら首元を掻く彼に礼を言う
―――ありがとう、あなたにもらったこの血で、この子たちは立派に育つでしょう
「さようなら」
別れの挨拶をすませ、彼の部屋から飛び立つ
静かな町に消えていく私を、月だけが黙ってみていた―――
Fin 【夏の虫――Mosquito】