この手を掴んで、離さないで〜猫被り令嬢は素直になれないようです〜
 ノックの音にびくりと肩をそびやかす。返事をすると、数人の侍女が部屋に入ってきて腰を折った。

「お初にお目にかかります。アマルダさま付きになりました、レーナと申します。よろしくお願い致します」

 一人だけ色の違うタイをつけた侍女がはきはきと名乗る。恐らくこの中で一番偉いのだろう。化粧っ気があまりないのに、鮮やかに引かれた紅だけがやけに印象に残る。

「アマルダさま、お花がお好きなのですか?」

 言われてはっとする。これではまるであのいけ好かない青年が寄越した花に見蕩れていたようではないか。
 反射的に否定しようとして、不自然すぎるかと思い直す。

「あ、ええ……その、実は」

「嬉しい、私もなんです」

 レーナが目を輝かせる。申し訳なく思いながらそっと視線を逸らす。

「フェリタ、珍しい花ですよね。花屋には並んでいないと思います。私も久しぶりに見ました。たしか花言葉は、希望、愛情、情熱……」

 思ったよりまともな花言葉だ。

「あとは渇望、だったような。まぁっ、愛されてますね、アマルダさま」

 もしかしたらそれで選んだのかもしれない、という考えをすぐに打ち消した。渇望? フォンはとてもそんなタイプには見えない。どちらかというとむしろ執着が無さそうに見える。それに冷静になって思い直せば愛情やら情熱やらも違う。

 どうせ女性に手当り次第に渡しているのだ。こういう風に勘違いを引き起こすとわかっていて。そういえば出会ってすぐ手を出そうとしてきたし、何やら浮ついた雰囲気の男だ。王族らしさがまるでない。
 珍しい花も王子なら簡単に手に入れられるに違いないのだし。

「……きっと、そういうことね」

「アマルダさま?」

 不思議そうに首を傾げたレーナに、なんでもないわ、と笑う。

 とにかく、本当に彼が自分の婚約者となったのか、まだ実感がないというのが正直なところだった。
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