この手を掴んで、離さないで〜猫被り令嬢は素直になれないようです〜
*  *  *

 舞踏会が終わる頃になって、父親に大広間の外に出された。父親は人目をはばかるように周囲を見回し、声を潜める。

「いいか? 静かについてくるんだ」

 城の奥へと進んでいく。兵士も立っていたが、父親を見ると黙って腰を折った。
 どれだけ進んだか、足が痛くなってきた頃、父親は一つの扉をノックした。

「失礼致します、陛下」

 ――陛下?

 私はぎょっと目を見開いた。ここは国王の私室だったのか。

 心臓が縮み上がるような思いをしながら父親に続く。そろり、と無礼にあたらないように僅かに視線を上げると、そこに御座すのは確かに国王陛下だった。肖像画でしか見たことのない、威厳のある風貌。
 私は慌てて深く頭を垂れた。足が震えて、今まで何度も繰り返したはずのお辞儀が歪む。

 全然違う。やはり……王族というのは、別格だ。

「よい。楽にせよ」

 国王はゆるゆると首を振ると、こちらに座るように促した。

「して、リチャードよ。それがお主の娘のアマルダか」

 リチャード――父親は、大きく首肯した。

「はい、陛下」

 国王の視線が自分に向くのがわかって、私は息を呑んだ。

「は、初めてお目にかかります。アマルダ・ティアツェルタでございます」

 どうにか言い切って、内心胸を撫で下ろす。王様は私に頷き、父親を見た。

「なかなか器量よしではないか、リチャード。それに利発そうだ」

「ええ、私の自慢の娘です」

「あのお前も娘の前では形無しというわけか」

 随分と仲が良さそうだ。父親に視線を向けると、ああ、と笑う。

「私は軍の最高指揮官をやっているからな。関わりがあるのだよ。それに、それ以前に私たちは旧くからの仲なんだ」

 知らなかった。なんだか知らないことばかりだ、と私は目を瞬いた。

「まあ、このような日に長話をしても仕方あるまい。そろそろ本題に入ろうか」

「……本題?」

「入れ、グイード」

 大きくはないが通る声で国王が言い、奥の扉が開く。現れたのは自分と同じ歳くらいに見える少年だった。

 なぜかフォンと名乗ったあの少年が思い出された。きっと、雰囲気がどことなく似ていたからだと思う。彼のように気品を纏った白皙の整った容貌。同じ黄金の髪。

 ただ一つ、何より大きく違うのは。
 彼の双眸が燃えるような赤であること。
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