幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした
１、嫉妬の嵐は突然やってくる？？
私の名前は五十嵐（いがらし ）陸（りく）女、２１歳の大学三年生。中肉中背だけど胸はどでかい、ちょっとだけ美人だと思っている。あくまでどこにでもいる普通の美人程度だ。
普通の美人はお化粧でどうにかなるのだ。だから普通の美人は作れるが、生粋の美人にはやはり負ける。生粋の美人というのは姉だ、実の姉。名前は海（うみ）。
十歳年上の姉は宝石デザイナーだ。
ホンマもんの美人だから、寝起きでも美人だし。産後太りしてもやはり美人。大した努力をしなくても肌艶が綺麗で羨ましい限り。仕事は大成功しメディアにも引っ張りだこ。
毎度見惚れてしまうほどイケメンの旦那さんは、姉をサポートしながら、姉がデザインしたものを実際の宝石で再現し世に出している。
プライベートも仕事でも最高のパートナーだ。
大学に行く用意をしながら、姿見で最終チェックをしているとインターホンが鳴る。
「はーい、今でます！」
開けた先には姉の旦那さんの桂川（かつらがわ）涼介（りょうすけ）さん。
「陸ちゃん、おはよう。 啓介（けいすけ）を保育園に送るついでに大学まで送るよ」
「あ、ありがとうござい…ます」
イケメンの笑顔が眩しい。姉とは同じ学年だが、年齢は現在３０歳。義兄の誕生日は三月と早生まれだから、四月生まれの姉が同学年であるのにいつもお姉さんぶっている。
二人の馴れ初めは、まさに恋愛小説。
初カレカノも、初キスも、初デートも初エッチも、姉と義兄は体験し、それは相性バツグンだったようだ…が。
姉達は何故か別れ、それから姉はあらゆる人…１０人以上と付き合いそして別れた。その彼氏達では、不思議系を素で突っ走る姉を満足させることが出来ず、最終は涼介さんのプロポーズに落ちた。
涼介さんも何人かは、姉でない女の人とお付き合いしたがやはり姉が忘れられず、別れてからは一応友人という位置で甘んじていた訳で。それは辛かったらしい。
やっと姉を手に入れて夫婦になった今は、以前のそれもあり、心内を隠さないを合言葉にした涼介さんは日頃から姉に甘ったるい台詞を吐き、それを聞かされる私は日々赤面を披露していた。
優しい涼介さんは、姉が溺愛する私にもそれはそれは優しく。
何故か たまにこうして送り迎えをしてくれる。申し訳ないのと恥ずかしいのとで、頭がふわふわしてしまう。
両親が田舎暮らしの為、東京の大学を選んだ私は姉が契約しているマンションの一つを借りて大学に通っている。
超高級マンションだから住み心地が良くて、もう頭が上がらず申し訳ない。自分で新たに家を探してもいいのだが、東京の大学に行く条件が、姉と一緒に住めという条件で両親と約束をした手前、無理。
好条件で家賃も払わなくてよいときた。それは甘えてしまうだろう。
だから陸は、基本掃除洗濯料理を引き受けている。姉も義兄も忙しい為、家政婦のように働く陸は有難過ぎるようで、家賃も払ってないのに、働いた分としてお小遣いもくれるのだ。
日々申し訳ないなぁと思っていても、苦労を買ってまでしたくない主義の陸は姉達に甘えきっていた。
言い訳になるが、美大に通う陸には、お金がかかる。有難く頂いたお小遣いは遊びではなく、全て画材に消えていくのだ。
隣のドアから顔を出した可愛い甥っ子に朝の挨拶をする。
「啓介くん、おはよう！」
「陸お姉ちゃん、おはよう！！ 抱っこして、抱っこ！！」
「こらっ、啓介！ 」
慌ただしい朝はいつもと一緒だ。抱っこをせがむ啓介くんは『おっぱい』が好き…みたい。
心もとないお胸の姉では少し不満みたいで、毎度おっぱいに抱きつきたがる。
いつもの事だし、啓介くんからは性的な何かはない。ただ気持ちいいからという理由と、きっと忙しい姉の代わりに甘えているだけなんだと思っている。
そんな啓介くんを抱っこし歩く。なんの変哲もない朝だったが、大事件は起こった。
マンションの鍵をかけて、エレベーターで一階に降りた先には、高級車が止まっている。
その車に義兄は迷わず向かう。
「あ、あの、涼介さん。いつもの車は？」
「車？ あれだよ」
あれだよ。ではない。あれは車にあまり詳しくない陸でも分かる超高級車だ。
流線形のシャープなラインに車体が低い。車の真ん中には馬の嘶く姿のマーク、定番は赤なのだろうがあえて白なのがオシャレだ。
「ちょ、ちょと、涼介さん、いつあんな車を買ったんですか？？」
「僕の車じゃないよ、流石にあれは買えないよ」
「え！？ でもあれに乗るのですか？」
不審がるのは私だけで、胸にしがみついている啓介くんは、まだおっぱいを堪能中で他に興味がないようだし、涼介さんは自分の車じゃないのに勝手知ったるようで、車に近づいていく。
陸の頭はパンク寸前だった。
胸を啓介くんにパフンパフンされながら車に近づくと、高級車の扉が開いて足が出てくる。
（うわっ、左ハンドルだ）
というどうでもいい台詞が脳内を飛んだ直後、陸の思考は凍る。
出てきた足の長い男性は、龍鳳寺（りゅうほうじ）要（かなめ）。
忘れていた訳じゃない。忘れようと思い続けて、それでも諦めきれず。小学六年生から今だに引きずっている初恋の相手。
龍鳳寺 要は、日本でも五指にはいる大財閥、龍鳳寺財閥の跡取りで、フランス人の母と日本人の父のハーフ。髪は黒いが瞳はシルバーブルーという珍しい色に加え、日本人の血が入っているかと疑問になるほどの色素薄いヨーロピアン美男。乙女ゲームの中に存在するような煌びやかな容姿。
手足が長くスタイル抜群。１８５センチの長身は、１６５センチの陸でも見上げなければ視線が合わない。
イケメン義兄も霞むほどの、そう文句なしの素晴らしい美貌だ。
最後に会ったのは三年前か？ いやな別れだった。何一つ悪くない彼に八つ当たりして、泣き叫んで…逃げた。そう逃げたのだ。
海お姉ちゃんの、彼氏（今は旦那） 涼介さんの友達の、新井（あらい）大輔（だいすけ）さんの友達だった龍鳳寺 要。彼は陸の十歳年上でかなり遠い存在。
彼がとくに姉や義兄と親しくしていた訳ではない。彼の友人の大輔さんが、ほぼ無理矢理ねじ込むように友人にしてきたのだ。
ガチムチの脳まで体育会系の大輔さんは日頃から「友達の友達は友達、人類皆友人！ がははははっ！！」と暑苦しくとてもシンプルな思考回路の方で、何故か私含めての五人で何度か食事をした。
初めて会った１２歳小学生の陸をも虜にするほど、要さんはダントツ綺麗で美しかった。
姉の彼氏の友達の友達。遥か遠い彼は、陸の今だに引きずる初恋の人だった。
「要、待たせてごめんな」
「いや、それほど待ってない。気にするな」
気にするなという台詞さえも、震えるほどの美声だが目が全く笑ってない。
射殺すようにこちらを見ているシルバーブルーの瞳が怖すぎる。面倒な事が嫌いな陸はしらばっくれようとした。が、これは禁句に近かった。
この時、絶対に言ってはならない発言をかます。
「ど、どなたですか？ 涼介さんの知り合いですか？」
「うん？ あれ？ 覚えてない？ まっ陸ちゃん小さかったしね、会ったのも数回だしね。彼はね、」
義兄の紹介待たずに、煌びやかな彼は勝手に自己紹介をしていく。
「龍鳳寺 要だ。記憶力が悪いのは昔からだな。いつまで姉にべったりなんだ？ 学生の分際で高級マンションに住んで、義兄に車で送迎させるのか？」
侮蔑を含んだ声に背筋が凍る。
「要！ 何をっ」
義兄の静止が聞こえないのか、そのままこちらに歩いてくる。陸は図星を指されて羞恥から一点を見つめたまま固まっていた。
陸のデカイ胸にしがみついていた啓介くんを剥がし、睨む啓介くんを視線だけで大人しくさせて、義兄の腕に渡した。
「涼介、早く車に乗れ」
「あ、あぁ、うん…」
義兄と啓介くんが高級車に乗り入れたところで、また視線は私に注がれる。見られているから仕方ない、顔を上げたら視線は合わさる。
「いいご身分だな。いつまでも初恋の男を追いかけて何がいい？ 姉の夫を寝とるつもりか？ その身体で。
〝あの時〟は仕方ない、溢れる好きな気持ちに蓋は出来ない。だが、お前のしていることは裏切りだと気づけ」
シャープな顎にスッと通った鼻筋、絶妙なバランスの唇に、彫りの深い目尻、けぶる様なまつ毛に、左右対象に位置するシルバーブルーの瞳。文句のつけようがない、圧感の美貌は何故か猛烈に怒っている。
全く意味の分からない事で。
陸が否定も肯定もしないため、さらに彼の怒りが増していく。
「涼介より、いい男なんて星の数ほどいる。早く目を覚ませ、電車で行く方が出会いがある。違うか？」
「…は、い…」
やっと返事をした私に、彼は少し笑った。
「なら、電車で行け」
それだけ言った龍鳳寺 要は、陸をそのまま残し義兄と啓介くんだけを乗せた車を発車させた。
陸は呆然としながらも高級車を見送って、マンションに直結している駅を目指して歩く。
初恋の人、龍鳳寺財閥の御曹司である彼。テレビではよく見る彼を、久しぶりに生で見た嬉しさより、意味不明な発言がまだよく理解できず、陸の思考はあっちの世界を彷徨っていた。
「私…別に涼介さんのこと、好きじゃないですけど…。昔から一度も好きになったことないですけど…。
だって、私が好きなのは…要さん。私の初恋は要さんですよ？
うん？ 意味がわからないですけど…。まっいっか。
……はぅー…めちゃくちゃ…カッコよかった…ふふふっ」
意味不明な発言で怒られたが、数年ぶりにあの有名人 『龍鳳寺 要』に会ったのだ。
会えたんだ。何故か怒っていたし、今後もう会う事はないだろう。
思わず視線をそらした時間がもったいなかったと、今更ながら後悔する。
「学校ついたら、みんなに自慢しよー」
と足取り軽く鼻歌を歌いながらホームでニタニタ笑っている陸とは違い、啓介を保育園に預けた瞬間、涼介と要の二人になった車内は地獄絵図だった。
超高級車の中で、涼介が要から嫉妬入り混じる重い一発を食らわされているとは、能天気な陸には理解及ばす。
陸の初恋はやっと叶いつつあった。
普通の美人はお化粧でどうにかなるのだ。だから普通の美人は作れるが、生粋の美人にはやはり負ける。生粋の美人というのは姉だ、実の姉。名前は海（うみ）。
十歳年上の姉は宝石デザイナーだ。
ホンマもんの美人だから、寝起きでも美人だし。産後太りしてもやはり美人。大した努力をしなくても肌艶が綺麗で羨ましい限り。仕事は大成功しメディアにも引っ張りだこ。
毎度見惚れてしまうほどイケメンの旦那さんは、姉をサポートしながら、姉がデザインしたものを実際の宝石で再現し世に出している。
プライベートも仕事でも最高のパートナーだ。
大学に行く用意をしながら、姿見で最終チェックをしているとインターホンが鳴る。
「はーい、今でます！」
開けた先には姉の旦那さんの桂川（かつらがわ）涼介（りょうすけ）さん。
「陸ちゃん、おはよう。 啓介（けいすけ）を保育園に送るついでに大学まで送るよ」
「あ、ありがとうござい…ます」
イケメンの笑顔が眩しい。姉とは同じ学年だが、年齢は現在３０歳。義兄の誕生日は三月と早生まれだから、四月生まれの姉が同学年であるのにいつもお姉さんぶっている。
二人の馴れ初めは、まさに恋愛小説。
初カレカノも、初キスも、初デートも初エッチも、姉と義兄は体験し、それは相性バツグンだったようだ…が。
姉達は何故か別れ、それから姉はあらゆる人…１０人以上と付き合いそして別れた。その彼氏達では、不思議系を素で突っ走る姉を満足させることが出来ず、最終は涼介さんのプロポーズに落ちた。
涼介さんも何人かは、姉でない女の人とお付き合いしたがやはり姉が忘れられず、別れてからは一応友人という位置で甘んじていた訳で。それは辛かったらしい。
やっと姉を手に入れて夫婦になった今は、以前のそれもあり、心内を隠さないを合言葉にした涼介さんは日頃から姉に甘ったるい台詞を吐き、それを聞かされる私は日々赤面を披露していた。
優しい涼介さんは、姉が溺愛する私にもそれはそれは優しく。
何故か たまにこうして送り迎えをしてくれる。申し訳ないのと恥ずかしいのとで、頭がふわふわしてしまう。
両親が田舎暮らしの為、東京の大学を選んだ私は姉が契約しているマンションの一つを借りて大学に通っている。
超高級マンションだから住み心地が良くて、もう頭が上がらず申し訳ない。自分で新たに家を探してもいいのだが、東京の大学に行く条件が、姉と一緒に住めという条件で両親と約束をした手前、無理。
好条件で家賃も払わなくてよいときた。それは甘えてしまうだろう。
だから陸は、基本掃除洗濯料理を引き受けている。姉も義兄も忙しい為、家政婦のように働く陸は有難過ぎるようで、家賃も払ってないのに、働いた分としてお小遣いもくれるのだ。
日々申し訳ないなぁと思っていても、苦労を買ってまでしたくない主義の陸は姉達に甘えきっていた。
言い訳になるが、美大に通う陸には、お金がかかる。有難く頂いたお小遣いは遊びではなく、全て画材に消えていくのだ。
隣のドアから顔を出した可愛い甥っ子に朝の挨拶をする。
「啓介くん、おはよう！」
「陸お姉ちゃん、おはよう！！ 抱っこして、抱っこ！！」
「こらっ、啓介！ 」
慌ただしい朝はいつもと一緒だ。抱っこをせがむ啓介くんは『おっぱい』が好き…みたい。
心もとないお胸の姉では少し不満みたいで、毎度おっぱいに抱きつきたがる。
いつもの事だし、啓介くんからは性的な何かはない。ただ気持ちいいからという理由と、きっと忙しい姉の代わりに甘えているだけなんだと思っている。
そんな啓介くんを抱っこし歩く。なんの変哲もない朝だったが、大事件は起こった。
マンションの鍵をかけて、エレベーターで一階に降りた先には、高級車が止まっている。
その車に義兄は迷わず向かう。
「あ、あの、涼介さん。いつもの車は？」
「車？ あれだよ」
あれだよ。ではない。あれは車にあまり詳しくない陸でも分かる超高級車だ。
流線形のシャープなラインに車体が低い。車の真ん中には馬の嘶く姿のマーク、定番は赤なのだろうがあえて白なのがオシャレだ。
「ちょ、ちょと、涼介さん、いつあんな車を買ったんですか？？」
「僕の車じゃないよ、流石にあれは買えないよ」
「え！？ でもあれに乗るのですか？」
不審がるのは私だけで、胸にしがみついている啓介くんは、まだおっぱいを堪能中で他に興味がないようだし、涼介さんは自分の車じゃないのに勝手知ったるようで、車に近づいていく。
陸の頭はパンク寸前だった。
胸を啓介くんにパフンパフンされながら車に近づくと、高級車の扉が開いて足が出てくる。
（うわっ、左ハンドルだ）
というどうでもいい台詞が脳内を飛んだ直後、陸の思考は凍る。
出てきた足の長い男性は、龍鳳寺（りゅうほうじ）要（かなめ）。
忘れていた訳じゃない。忘れようと思い続けて、それでも諦めきれず。小学六年生から今だに引きずっている初恋の相手。
龍鳳寺 要は、日本でも五指にはいる大財閥、龍鳳寺財閥の跡取りで、フランス人の母と日本人の父のハーフ。髪は黒いが瞳はシルバーブルーという珍しい色に加え、日本人の血が入っているかと疑問になるほどの色素薄いヨーロピアン美男。乙女ゲームの中に存在するような煌びやかな容姿。
手足が長くスタイル抜群。１８５センチの長身は、１６５センチの陸でも見上げなければ視線が合わない。
イケメン義兄も霞むほどの、そう文句なしの素晴らしい美貌だ。
最後に会ったのは三年前か？ いやな別れだった。何一つ悪くない彼に八つ当たりして、泣き叫んで…逃げた。そう逃げたのだ。
海お姉ちゃんの、彼氏（今は旦那） 涼介さんの友達の、新井（あらい）大輔（だいすけ）さんの友達だった龍鳳寺 要。彼は陸の十歳年上でかなり遠い存在。
彼がとくに姉や義兄と親しくしていた訳ではない。彼の友人の大輔さんが、ほぼ無理矢理ねじ込むように友人にしてきたのだ。
ガチムチの脳まで体育会系の大輔さんは日頃から「友達の友達は友達、人類皆友人！ がははははっ！！」と暑苦しくとてもシンプルな思考回路の方で、何故か私含めての五人で何度か食事をした。
初めて会った１２歳小学生の陸をも虜にするほど、要さんはダントツ綺麗で美しかった。
姉の彼氏の友達の友達。遥か遠い彼は、陸の今だに引きずる初恋の人だった。
「要、待たせてごめんな」
「いや、それほど待ってない。気にするな」
気にするなという台詞さえも、震えるほどの美声だが目が全く笑ってない。
射殺すようにこちらを見ているシルバーブルーの瞳が怖すぎる。面倒な事が嫌いな陸はしらばっくれようとした。が、これは禁句に近かった。
この時、絶対に言ってはならない発言をかます。
「ど、どなたですか？ 涼介さんの知り合いですか？」
「うん？ あれ？ 覚えてない？ まっ陸ちゃん小さかったしね、会ったのも数回だしね。彼はね、」
義兄の紹介待たずに、煌びやかな彼は勝手に自己紹介をしていく。
「龍鳳寺 要だ。記憶力が悪いのは昔からだな。いつまで姉にべったりなんだ？ 学生の分際で高級マンションに住んで、義兄に車で送迎させるのか？」
侮蔑を含んだ声に背筋が凍る。
「要！ 何をっ」
義兄の静止が聞こえないのか、そのままこちらに歩いてくる。陸は図星を指されて羞恥から一点を見つめたまま固まっていた。
陸のデカイ胸にしがみついていた啓介くんを剥がし、睨む啓介くんを視線だけで大人しくさせて、義兄の腕に渡した。
「涼介、早く車に乗れ」
「あ、あぁ、うん…」
義兄と啓介くんが高級車に乗り入れたところで、また視線は私に注がれる。見られているから仕方ない、顔を上げたら視線は合わさる。
「いいご身分だな。いつまでも初恋の男を追いかけて何がいい？ 姉の夫を寝とるつもりか？ その身体で。
〝あの時〟は仕方ない、溢れる好きな気持ちに蓋は出来ない。だが、お前のしていることは裏切りだと気づけ」
シャープな顎にスッと通った鼻筋、絶妙なバランスの唇に、彫りの深い目尻、けぶる様なまつ毛に、左右対象に位置するシルバーブルーの瞳。文句のつけようがない、圧感の美貌は何故か猛烈に怒っている。
全く意味の分からない事で。
陸が否定も肯定もしないため、さらに彼の怒りが増していく。
「涼介より、いい男なんて星の数ほどいる。早く目を覚ませ、電車で行く方が出会いがある。違うか？」
「…は、い…」
やっと返事をした私に、彼は少し笑った。
「なら、電車で行け」
それだけ言った龍鳳寺 要は、陸をそのまま残し義兄と啓介くんだけを乗せた車を発車させた。
陸は呆然としながらも高級車を見送って、マンションに直結している駅を目指して歩く。
初恋の人、龍鳳寺財閥の御曹司である彼。テレビではよく見る彼を、久しぶりに生で見た嬉しさより、意味不明な発言がまだよく理解できず、陸の思考はあっちの世界を彷徨っていた。
「私…別に涼介さんのこと、好きじゃないですけど…。昔から一度も好きになったことないですけど…。
だって、私が好きなのは…要さん。私の初恋は要さんですよ？
うん？ 意味がわからないですけど…。まっいっか。
……はぅー…めちゃくちゃ…カッコよかった…ふふふっ」
意味不明な発言で怒られたが、数年ぶりにあの有名人 『龍鳳寺 要』に会ったのだ。
会えたんだ。何故か怒っていたし、今後もう会う事はないだろう。
思わず視線をそらした時間がもったいなかったと、今更ながら後悔する。
「学校ついたら、みんなに自慢しよー」
と足取り軽く鼻歌を歌いながらホームでニタニタ笑っている陸とは違い、啓介を保育園に預けた瞬間、涼介と要の二人になった車内は地獄絵図だった。
超高級車の中で、涼介が要から嫉妬入り混じる重い一発を食らわされているとは、能天気な陸には理解及ばす。
陸の初恋はやっと叶いつつあった。
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