幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした
11、ジョルデカルータ店のその後
虚しい気持ちのまま、要は欲望の後片付けをした。
股間の一部以外はそのまま衣服を着用していたから、後始末は短時間で終えれる。
燃やすつもりだった陸の生乳下着写真は、持ってきたそのまま厚手の封筒の中に入れ直し、手に持つ。
今、もう一度、陸の生乳下着写真を見ても興奮はしないだろう。
もちろん満足したからではない。
想像の中でさえ拒否された要は、これでもかという程に打ちのめされていたからだ。
「戻らないといけないな…」
ポツリと出た己の暗い声に、笑いが込み上げる。
皆が羨む生まれ、運も味方し仕事もでき、どれほど褒められた見目でも…。
愛する相手、陸に好意を持ってもらわなければ、ガラクタの寄せ集めとそう変わりない。
『何故、俺は涼介に なれない?』 この一言だけは絶対に口にしないのは、要の最後のプライドだ。
言葉は言霊。口に出したら最後、陸には一生涯選んでもらえなくなる。
「一番でなくていい。二番で構わない…」
天下の龍鳳寺財閥の御曹司である要が、口にする言葉では最早あり得なかった。
二番目でも、それでもいいと思える要は、もう陸以外の女を選べない限界まできていた。
陸が一生、涼介を好きで、他の男のモノにならなければ百歩譲って今のままの関係でも我慢はできるし、要もここまで必死にならないはず。
でもそのような奇跡はありはしない。陸は恋多き大学生だ。
年の近い学生どうしの方が楽しいだろうし、涼介から心変わりし彼氏が出来て、初めての行為を覚えていくのだ。
そうなった時、金と権力を持つ要は自分が何をするか分からなかった。
気落ちしたまま最上階にあるジョルデカルータを目指し歩く。
勝手知ったる場所であるから、要はそのまま店に入りVIP用の個室に入っていく。
「…遅くなった。すまない」
一応の謝罪を皆にし、先程座っていた椅子に座り直す。対面式になった為、シャルロットとラースメンが視界に入る。
陸の生乳下着写真を持って退出したのだ。何をしに行ったかは大体把握済みだろう。
隠す気はないので、どう思われようが要は一向に構わないのだが、思っていた顔ではなかった。
こちらを見るシャルロットの顔は、この世の終わりとばかりに残念な顔で、婚約者のラースメンは異常なほど無表情だった。
「いえ、気に入って頂けて光栄です」
受け応えが〝無〟に等しい。
無駄にイケメンなボーイは要の姿を見て、待ってましたとばかりに軽食の用意に取り掛かっている。
要はそのボーイを呼び、必要なアイテムを揃えてもらう。
「おい、頼みがある。大きめの灰皿とライターを持ってきてくれ。紙をこの場で燃やしたい」
「? 紙の処分でしたらシュレッダーがございますが、僕が裁断してきましょうか?」
「灰皿とライターだ。お前の意見は聞いてない」
一気に室内が極寒に早変わりする。口を挟まない裕介やシャルロット、ラースメンは表情には出さないが、背中に汗がつたっていた。
燃やす紙は、先程渡した陸の生乳下着写真で間違いない。
(何が気にいらないのか?)
シャルロットは撮った写真の中で、これが一番喜んで頂けると確信して持参したから尚更疑問だった。
顔面蒼白のイケメンボーイが退出した後、シャルロットは声が震えないように、一度呼吸を落ちつかせてから口を開いた。
「…申し訳ございません。気に入って頂けなかったみたいで。他のアングルも…、」
「今すぐ消してくれ」
「あの…消すとは?」
(消すのであって、消えてくれとは言われてないよね?)
と要の言葉をシャルロットは瞬時に反芻した。まさに命を抹殺か!? と内心では震え上がる。
シャルロットの感情が要に伝わったのか、耳にとても心地よい声が投げかけられる。
「怯えないでくれ。あの写真は携帯で撮ったな?ではまだ画像は残っているのでは?」
「残ってますが、違うアングルとかがよろしいのでしょうか?」
「……違う、写真は…普通のが欲しい。あれは流石に俺が見ていいものではないだろう? …見た後でなんだが…。
陸と俺は所詮知り合い程度だ、何の関わりもない。彼女の知らないところで、汚しているようで心苦しい」
(言ってしまうか??)
シャルロットは究極の選択に迷っていた。龍鳳寺財閥の事実上トップの要にここまで言わせて黙っておくのか?
陸なんてちょろいもんだ。
要から『一目惚れだった、付き合って欲しい』や『ずっと好きだった、結婚を前提として付き合って欲しい』など言った瞬間から踊り狂うほど感激し、泣きながら抱きつく姿が容易に想像できる。
シャルロットの心の安定剤である婚約者兼護衛ラースメンを見る。
するとラースメンの顔は「シャルロット様が思うように、なさってください」と書いてある。
(くっ、ラースメンは使えないわね。どうしよ、言う? 言っちゃう?
でも、でもね、他人から言うのってアリかな? 無しよね…。
だって、陸の初恋は変態よ? 変態の初恋も陸よ? これは本人の言葉から言わなきゃ!!
じゃあ、どうする?どうやって二人を会わす?)
頭をフル回転させながら思考するシャルロットに要は、静かに頭を下げる。
「龍鳳寺は関係なく聞いてくれ。俺個人として正直に言うと、あぁいう写真は、死ぬほど欲しい。
けれど犯罪者になりたい訳じゃないからな。これは焼却処分するし、頼むから今すぐ携帯に入っている画像も消して欲しい。
あのほぼ裸体写真がまだ残っているのが心配で恐い」
要の誠意ある発言に泣けてきた。シャルロットは個人携帯をポケットからすぐに出し、要の前で何枚か撮った写真全てをゴミ箱に入れ、さらに最終削除までした。
削除してから再度アルバムを見て、残ってないか確認した。
「消しました! 安易な考え、申し訳ございません。頂いたお金もお返し致します!」
誤ったシャルロットに要も苦笑いの表情を見せた。
「いや、金はいらない。偉そうに注意したが、しっかり見たし。見て…したからな。今後はもうしない。約束しよう」
シャルロットとて悪魔ではない。神ほど清廉潔白ではないにしても、両思いの二人を引き裂いてやろうなどとは思わない。
「あの、ですね!! 陸はかなり年上が好きです。二つ三つどころではなく、もっと年上が好きです。背が高いのも好みだと言ってました。
ガチむちタイプではなく、すらっとスマートな男性が好きです!! 本人から聞いたので、間違いありません」
必死なシャルロットに要は、心の中で冷静に突っ込む。
(間違いなく全部、涼介だな。見事に涼介じゃないか。
すらっとスマートか…俺みたいなガチむちタイプは苦手なんだろう。鍛え過ぎたか…多少筋肉を落とすか…)
ここでも軽くすれ違いが起こる。人の感覚の違いは難しい、本当に難しい。
シャルロットの基準はラースメンだ。ラースメンは色黒でタッパもあり、いわゆるガッチガッチのゴリマッチョだ。
ラースメンに比べたら、中性的な見目の麗しい要はスマートと表現して当然なのだ。
なにせ要は見目が陶器人形のごとく色白の美貌。
スーツを着ていると厚い胸板やバッキリ割れた腹筋は見えず、脱がないと分からない。
ちなみにシャルロットからすれば涼介は『もやし』か『マッチ棒』だと表現するに違いない。
人の基準はとても難しいのだ。
(えー!? 何故、顔が沈むのよー!? ここまで言ったら確信するでしょ。あぁー俺かって。
分かんない、分かんない、ひょーー!! 若田さんが睨んでいるよー)
腹芸が出来ないラースメンは無表情を決めつつ、成り行きを見守っていたが、シャルロットが何度も助けを求めてくる為、あくまでシャルロットに対して口を開く。
「シャルロット様、送迎を頼むのはどうでしょうか」
「送迎!!」
「なんですか、送迎とは。これ以上は容認しませんよ」
いよいよきた!! 冷酷の代表とも言える要の第一秘書若田裕介が、ボスの心情を乱しまくるシャルロット達を敵とみなした。
「陸の送迎です!!」
声が大きくなり過ぎた。が睨む裕介とは違い要はガッツリ食いついた。
「陸の送迎とは何だ!?」
食いついた要に、睨む裕介、応援してくるラースメン、三者三様の視線を集めなが、シャルロットは要に提案を持ちかける。
人の恋路に首を突っ込んではならないのだと、この提案がさらに二人をドロ沼に落とすとは検討もつかなった。