幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

15、それぞれの道



「なんですってー!? なんで!? どうしてこうなった!? 陸は変態が好きなんじゃないの!?
 変態も頭おかしいくらい病気みたいに陸を好きなのに!? なんで陸が突如出現した田中優一と付き合ってるのよ!?
 ふざけんじゃない!!!」


 シャルロットの久しぶりの絶叫に、典子と美恵の顔が曇る。


「ごめん、シャルロットちゃんの言いたい事の議論をする前に、まさか変態ってあの龍鳳寺 要様のことじゃないよね?」

 美恵ちゃんが、引きつりながらシャルロットに投げかた言葉はあっさりと肯定される。


「そうよ、変態じゃない。間違いなく、変態。アダ名よアダ名。
名前を直接呼ぶのは恐れ多いし。何かと情報が漏れるしね」


 情報が漏れる漏れない以前に、名前で呼ぶより失礼極まりないアダ名が、かなり酷いのではないか?

仮にもあちらは社会人で年上でもあるのだ。

 残念な顔をシャルロットに向けている典子と美恵だが、シャルロットの独白に「やっぱり!!」と確信を得たと共に、拗れる原因は少なからず私達にあるのでは?と戦々恐々。

 陸はひと月くらい前から、田中くんと付き合ってる…と周りからは言われていた。

 厳密にいえば、陸と優一はまだ付き合っていない。
友達以上恋人未満の間柄で、驚くほど清い関係だ。手は繋ぐが、キスも勿論それ以上もしていない。


 要に【ジョリ】店にいる陸の送迎を提案してから、シャルロットは鳥野苺に着用させるドレス作りや、同時に売り込むワンピースの企画立案を社内に通し、やっと形あるところまで持ってこれた。

 毎日、三時間眠れたらいいほどであったから、上手くいっただろう要と陸の話はひとまず置いておいたのだ。

 やっと想いが叶った二人だ、そりゃイチャイチャイチャイチャ、周りが見えないほどのイチャつきっぷりだと想像し、あえて連絡をたっていた。

 あれからひと月。

久しぶりに学校に足を運んだシャルロットは、頭を抱えてうずくまるという状態にさせられたのだ。


 シャルロットだけではなく、友人の典子と美恵も撃沈している中、一人冷静なラースメンはシャルロットに現実を突きつける。

「シャルロット様、いかが致しますか? 拗れまくってますよ。
この事をお知りになった龍鳳寺様の、その後が恐怖過ぎるのですが…」


「言わないで、ラースメン、言わないで。
 なんで? なんで両想いなのに、上手くいかないのよ〜、さっさとくっついたらいいのにー、あの二人、もう嫌!!!」

 ラースメンとシャルロットの会話に、口から魂が出そうな典子と美恵。現実逃避する為に、無言無心で課題に向かう。

 陸は風邪で休んでいる。皆を悩ませ、拗れまくる二人。だが、決定打はこの後に待っていた。


 授業が終わる時間、早々と片付けをしていた田中 優一は嬉々としていて、シャルロット達からすれば気にくわない相手。

その田中が馴れ馴れしくシャルロットに話しかけてきた。


「あれ? 今日は龍神さんもいてたんだ。久しぶりだよね」

「何よ、きちゃ悪い?」

 シャルロットの言葉は喧嘩腰だ。

「別に悪いだなんて言ってないよ。龍神さんは忙しそうだから。陸も寂しそうだったからさ。また連絡してあげな。きっと彼女も喜ぶよ!」

「はぁ?? あんた何様? 一々言われなくてもこっちはこっちでするから」

「何様って。彼氏だからだよ。彼女の心配をするのは当然だろ?
今日も顔を見に行ってあげなくちゃ。僕の顔みて、元気を分けられたらいいからね」

 ブチッ!

まさに血管が切れた音が聞こえた。田中優一を見送ったシャルロットは、ドスの効いた声で今後の予定をラースメンに伝えた。


「ラースメン。帰るわよ、そして変態のところに行くわ」

「はい、その方がよいかと」


 二人は微笑んで会話しているが、目が全く笑ったいない。むしろあれは敵を見る目だ。

 要の変態具合には引くしキモいと思うが、田中優一は絶対に危ない系だとシャルロットは直感していた。

 陸からは連絡がない。では百パーセント、付き合ってはないはず。

以前、恋人が出来たら話してね。と約束したし約束を違えるタイプではない。


 九年思い続けた要を、はいじゃあ次の人と言える訳はない。
それが出来たら、21歳にもなって誰とも付き合った経験がないとはならないはずだ。

 走る車内でシャルロットは、言葉を選ぶように話す。


「ラースメン、陸は絶対に田中と付き合ってない。予想だけど、告白された。よく知らないから友達からで陸は言った。
一応友達以上恋人未満ね。だけど田中は皆に付き合っていると言っている。
奴の思考は犯罪者系よ、いるのよね、勝手に先へ進む奴が」

シャルロットの意見に、ラースメンは頷く。

「シャルロット様、田中優一ですが、誰よりも陸様の胸を見ていた人物です。間違いなく思考は危ない。
陸様が田中優一を自宅に招き入れているのが少し怖くあります」

「念には念ね。まずは変態に連絡よ、陸の貞操を守るのは変態しかいない」

 長い車体の車は、龍鳳寺グループを統括する本社ビルを目指して走り出した。



 ***


「頭、痛いなぁ…。学校、明日は行かなくちゃ」

 ベッドから這い出て、テーブルに置いていた水を口に含む。頭痛の原因は実は分かっていた。陸もこれほど自分が体調不良になるとは思わなかったのだ。

 一週間に購入した雑誌。雑誌に要の名前がちらっと見えて、内容も見ずに購入した。

 そこに書いてあったのは、レッドアンドブラック賞の授賞式特集。最優秀演技賞をもらう鳥野苺の特集であった。
彼女は龍鳳寺 要と恋人どうしになりたいと、皆も祝福して欲しいと、そうあった。


『彼の見つめる瞳は、私を一人の女としてみてる。とても光栄なことです』そうインタビューに答えたらしい。

 それから陸の頭痛はやんでない。家の中でも足や頭をぶつけ、鍋をひっくり返し左腕肘から下にぶっかけた。
涼介に救急病院へ連れて行ってもらったりと、生活がめちゃくちゃになっていた。


「疲れてたのね、ごめんね」そう姉から言われ、家政婦も今は休業中。

 暇になれば、携帯をググってしまい。要と鳥野苺の特集を目にしてしまい、さらに頭痛を引き起こすと悪循環になっていた。


「忘れようと決心した瞬間に、これは酷いよ。まだ好きなんだけど、まだ…まだ忘れてないよ…」


 泣き声混じる自分の声で、さらに悲しさが増していった。

 ピンポーン、ピンポーン。

 なったチャイムが、田中優一君だろうと陸は確信する。


 家を教えた日からここ数日、お見舞いに来てくれる。「しんどくない?」といいながら、肩や頬をべたべた触り、優一の腕がよく胸に当たる。

 自意識過剰かもしれないが、あまりいい気分ではなく、今日こそは断わろうと力んでみる。

 カメラを覗きこむと、優一ではなかった。


「か、要さん!? 」

 慌てて鍵を解除した。マンションに入ってくる要をイターホンの画面ごしに見ながら、右往左往。


「要さん。涼介さん家と間違ってる? きっとそうだ、そうだよね!!」

 ピンポーン、ピンポーン。自宅のチャイムが鳴った。

「えぇー!? 」


 疑問満載だったが待たせる選択は陸に無いため、鍵をすぐに開けた。

 ドアが開いたそこにいたのは、やはり間違いなく魅力が漏れ溢れている要の姿だった。


「…要…さん?」

「体調を崩している時に悪いな、陸が元気になりそうな甘いケーキを買ってきた。入っても構わないか?」

「えぇー!? も、もちろん、どうぞ。わざわざすみません」


 まさかの用事は陸だった。

 もう夢か現実か、白昼夢が一番のせんだと。陸の生活場所に要がいる不思議で、胸がどうにかなりそうだ。

 嬉しくそしてとても切なかった。



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