オリオン座の恋人
足元に気をつけながら、森の中を歩いていた時だった。

「あれ? あの子達……」

私達の逃した母子鹿が並んで歩いていた。木々や蔓なんかを縫って歩く二頭は、何だか目的地に向かって進んでいるように見えて……

「何処に向かっているんだろう?」

私はその二頭が気になって、付いて行った。

「こら! 勝手なことをするな」

オリオンはまた、不機嫌に怒鳴ったけど。

「いいじゃん。気になるんだもの」

私は母子鹿を追って……オリオンも渋々、彼らを追う私に付いて来た。



鹿は森の奥の泉に辿り着き、二匹してその水で喉を潤していた。
その時にはもう、空を夕陽が真っ赤に染めて……泉もそれを反射して、オレンジ色にキラキラと輝いていた。
そして、その夕陽の少し上。ほんのりと藍色に染まっている空には、美しい……白色に輝く三日月が昇りかけていて。

「わぁ。綺麗……」

私は思わず、煌びやかさと静けさの共存した、その神秘的な美しさに見惚れた。

「お前……勝手なことはするなと言っているだろう」

「あら? でも、そんな私に付いてきたのも、あなたの勝手じゃない?」

私達は鹿に気付かれないよう、ひそひそとそんな言い合いをしていた。
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