オリオン座の恋人
「ふん。狩猟を捨てたお前なぞに用はない。さっさと立ち去れ」

オリオンがぶっきら棒にそう言うと、アルテミスはクスッと笑った。

「あら、昔の恋人に対して、その言い草はないんじゃない? オリオン」

「えっ……」

彼女のその言葉に……私は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

えーー! オリオンとアルテミスが……恋人だった!?
粗野で無骨でぶっきら棒なオリオンと、こんなに綺麗で素敵な女神様が?
そりゃあ、オリオンも優しくて温かくて……可愛いところもあるけれど。私には俄かに信じがたかった。



「所詮は昔話だ。もう、お前になぞ興味はない。行くぞ、セナ」

オリオンは不機嫌に踵を返した。

「えっ、でも……」

そんな二人の様子に狼狽えていると……アルテミスは私を見てにっこりと笑った。

「セナさん。お茶を用意しますし、いつでも、私とお話しましょうね。ずっとオリオンと一緒だと、息も詰まるでしょうし」

「え、ええ……」

そんな私達に、オリオンはさらに不機嫌そうに言った。

「セナ! 置いて行くぞ」

「あ……ちょっと、オリオン。待ってよ!」

ムスッとして立ち去る彼を、私は必死で追いかけた。オレンジ色の夕焼け空は薄っすらと紺色に染まり始めていた。
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