オリオン座の恋人
『ガサッ……』

「きゃっ!」

茂みから飛び出したそれに一瞬、目を瞑った。
けれども……恐る恐る、目を開けて。真っ先に目に飛び込んできたその小動物に、私の顔は思わず綻んだ。

「まぁ……可愛い!」

それは目が大きく、くりっと輝かせた可愛い野ウサギだったのだ。
その野ウサギは鼻をひくひくさせて、私の方をうかがうかのようにこちらを見て。すぐに方向を変えて獣道を走って行った。

「あ、ちょっと。待って!」

私は思わず、野ウサギを追いかけた。
野ウサギってもっとすばしっこいかと思っていたけれど、案外、私でも付いて行けた。
野ウサギが案内してくれているような気がする……私は何だか、そう思ってしまうほどだった。



「え、ここって……」

野ウサギを追って着いた先は、あの綺麗な泉だった。そう……昨日、アルテミスと会ったあの泉。
野ウサギは、泉に口を付けてその水を飲んでいた。


茫然として泉を見ていると……

「あら、セナさん」

背後から声を掛けられた。

振り返って目に入ったのは、金髪に透き通るような白い肌。吸い込まれるような碧い瞳……。

「アルテミス……」

私がまた会って……オリオンのことを色々と聞きたいと思っていた、その女神だった。
< 41 / 101 >

この作品をシェア

pagetop