オリオン座の恋人
「お兄さんが何と言おうと、私、オリオンが好きなの。これからもずっと、オリオンと一緒に生きていくの。お願いだから、邪魔しないでよ」

アルテミスはきっぱりとそう言い、オリオンの手を引き足早に去った。
さしものオリオンでも大きな熊を背負っていたため、速くは走れなかったけれど……アポロンは追って来る気配はなかった。

「アルテミス。大丈夫なのか? お前の兄だろ?」

オリオンは柄にもなく心配した様子を見せていたけれど。

「大丈夫よ。女神とは言っても……私、自分の好きなように生きるの」

アルテミスは意志が固く、オリンポス十二神の兄が相手でも決して折れなかった。



それから、暫くは何事もない平穏な日々が続いた。いや、オリオンと過ごす日々は平穏と言えるものではないけれど……そんな、アルテミスにとって楽しくって仕方がない毎日を邪魔する者はいなかった。

しかし、アポロンは水面下で画策していた。
キオス島の王、オイノピオンにオリオンの冤罪を吹き込んだのだ。
そう……オリオンは以前、キオス島に立ち寄ったことがあった。その際に、酒に酔った勢いでオイノピオンの娘であるメロペーを暴行したという話をでっち上げたのだ。
オリオンがキオス島に立ち寄ったのはアルテミスと出会う前のことであり、その話は無実無根のことだったのだが……オイノピオンはアポロンの言うことを信じ、憤慨した。
< 47 / 101 >

この作品をシェア

pagetop