オリオン座の恋人
「お兄様、お願いします。オリオンの目に光を戻して下さい」

アルテミスは懇願した。その碧く美しい瞳からは涙が両頬を伝って落ちた。

アポロンはオリオンを許さないつもりでいたのだが……アルテミスのその姿に決心は揺らいだ。
だから、彼女に交換条件を出した。

「アルテミス。お前がオリオンの元を去り、金輪際、奴と関わらないと言うのなら、私が太陽の力をもって目を癒そう」

「えっ……」

それはアルテミスにとっては大変につらい選択だった。オリオンと別れてもう関わることができないなんて、身が引き裂かれるほどにつらい。しかし、このままではもうオリオンの目に光が戻ることはない……。

「分かりました、お兄様。私……オリオンの元を去ります。だから、彼の目に光を戻してあげて下さい」

アルテミスは断腸の想いで決断した。



かくして、オリオンの目に光は戻った。
しかし、アルテミスは彼の元を離れて。オリオンは、以前にも増して猛獣のように気性が激しくなった。
それは、自らに近づく者に気を許してはいけない……そう、思い知ったから。そして、彼の近くで支えて、その気持ちを宥めるアルテミスという存在も失ったから。

だから……彼が見ず知らずの少女を近くに置いて一緒に暮らすだなんて、考えられないことだったのだ。


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