オリオン座の恋人
「そんなことが……」

オリオンのその、あまりに壮絶な過去に言葉を失った。いや……その神話は幼い頃、父親から聞いていたんだけれど、所々、微妙な箇所が違っていて。
アルテミスの口から聞くと、彼の過去がより強く実感を持って私の胸に染みてきた。

だから、私はとても胸が苦しくなって……目からは涙が溢れ出した。

「やだ、あなた。何を、泣いているの?」

「だって……アルテミスとオリオンの間に、そんな悲しいことがあっただなんて……」

運命に引き裂かれた二人。愛し合っていたのに、悲しすぎる。
だけれども、私はそれよりも……オリオンの過去を聞いて、アルテミスとの絆の深さを知って。それが何とも言えないほどに切なくって、息苦しくて堪らなかったのだ。

すると、そんな私をアルテミスはそっと抱き寄せた。

「大丈夫よ。だって……オリオンにはあなたがいるんだもの」

そう囁いて、にっこりと微笑んだ。

「でも、あたしなんて……」

「私には分かる。ずっと、オリオンと一緒だった私には。あなたと一緒だと、オリオン……とっても幸せそうなのよ」

アルテミスのその言葉に、私の心は落ち着いた。
何故だか分からない……私はオリオンに恋心なんて抱いていないはずなのに。寧ろ、初めて会ってから今まで、悪いイメージしか持っていなかったはずなのに。
オリオンが私と一緒にいると幸せそうだと聞いて……心がとても癒されたのだ。
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