最後の陽が昇る日まで



「お前・・・」
「お大事に・・・そのハンカチは差し上げます・・・」


ぺこっと小さく頭を下げて、わたしは彼に背を向けて家の敷地に戻った。
壁に寄りかかって耳を澄ませると、足音が遠ざかっていく。
小さく息を吐いて、わたしはさっきの彼を思い出す。


「綺麗な、人だったな・・・」


少し怖いとも思ったけれど、あんなに顔の造りがいい人は初めて見た。
身長も高くて、モデルみたいだった。
怪我、大丈夫かな。


「もう、会うこともないけれど・・・」


心配することは勝手だよね。



壁から離れて、わたしは家の方に歩く。
いつもよりは長く外にいたと思うけど、そろそろ入ろう。
そういえば、家にいる人以外に外で人に会ったのは何年ぶりだったかなと思いながら、わたしはゆっくりと歩いた。





綺麗な月が、わたしを照らしてくれていた。



これが、わたしと彼との始まり。


まさか、これから彼と同じ時間を過ごす日が来るなんてこのときは微塵にも思っていなかった。


< 16 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop