最後の陽が昇る日まで
「よし!」
小さな肩掛けの鞄も持って、準備万端。
ーーーコンコン、とノックされ、梶がやってくる。
「準備できましたか?」
「できました」
「行きましょうか」
梶も、いつもの燕尾服ではなく、ラフな格好をしている。
ピシッときめているから、普通の服を着ている彼は少し、違和感だ。
「どうかしましたか?」
「ううん、何でもない」
ジッとわたしが見るから梶は首を傾ける。
首を振ってから、わたしはドアの方に行くと、梶が開けてわたしが通れるようにしてくれた。
広い家の中は、静まりかえっている。
「今日は、梶だけ?」
「いえ、他にもいますが、持ち場はそれぞれ違うので」
「そうよね」
いつも会える人は少ない。
この家に両親以外に誰がいて全部で何人が働いてくれているのかもわたしは全く知らない。
家の前に用意されていた車は、ベンツの黒い車だった。
梶が後部座席のドアを開けてくれる。
「どうぞ」
「・・・この車しかなかった?」
ベンツが高級車だってことはわたしだって分かっている。
正直わたしが乗るのは気が引けるんだけどな。
もうちょっと気軽に乗れそうな車はこの家にはなかったかな。
「この車が、一番乗りやすいかと・・・他は、もっとすごいですよ」
「そっか・・・」
誰が乗るのかは分からないけど、家にはあと2台ほど車がある。
父の趣味なのか母の趣味なのか、車は一台あれば充分だと思うけれど、両親にとっては違うみたいだ。