遅咲き鬱金香(チューリップ)の花咲く日
 ざわざわと部屋の中に声が溢れ、真っ先に金香は珠子のところへ向かった。
「おめでとうございます」
 金香の祝いの言葉に、珠子は紅潮した頬で「ありがとう」と言った。
「賞を貰えるなんて、初めてなの。夢のようだわ」
 いつもきりりとしている珠子のここまで高揚した、という様子は初めて見た。
 しかし当たり前だ。なにしろ入賞なのだ。
「早く珠子さんの作品、読んでみたいです」
「ありがとう」
 そして金香にもお祝いの言葉をくれる。
「金香さんもおめでとう。初投稿なのでしょう。それで選評がつくなど快挙よ」
「本当に……勿体ないことです」
「そんなことないわ。ああ、嬉しい。こんなに嬉しいことは無いわ」
 普段ならおしゃべりをするところなのであるが、珠子は「良人(おっと)と、お父様とお母様に早く報告するわ」と、さっさと帰ってしまった。
 それを「本当におめでとうございます」と見送って、金香はちょっと羨ましくなった。
 このあと珠子はご両親に大層褒められることだろう。それは自分には無いものだ。
 でも、と腕に抱えた雑誌を見下ろす。
 なにも無いわけじゃない。
 明日あたり一度家に帰ってお父様に報告しよう、と思う。仕事に出ている可能性も高いので家に居ると良いのだが。
 そして、あとで先生……麓乎にも、きっと褒めてもらえることだろう。
 期待してしまったがそれは叶って然るべきことである。
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