密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
ぱちん――
鋏が鳴り、目の前でトマトが収穫される。手に乗るトマトは赤く食べ頃だ。
見るもの全てが新鮮で、長く見つめてしまう。そのため私に気付いた男性は帽子の下で顔を上げていた。
無言で顔を背けては印象が悪いと、私は自ら話しかけることにする。
「邪魔をしてすみません。お尋ねしたいのですが、領主様のお屋敷はこの先で間違いないでしょうか?」
「サリア?」
息をのむ気配。それにこの声は……
忘れたことはない。私はこの方にお会いするため、遠くリエタナまでやってきたのだから。
でもここは畑。領主様のお屋敷ではありません。
でも……
「あ、主様!? どうして畑から主様の声が!?」
答えは簡単、目の前にいる男性こそが主様本人でいらっしゃるからだ。
「やあ、サリア。久しぶり」
のんきに挨拶をしている場合ではないと、珍しくも主様を前に反論したくなった。
危うく卒倒するところですよ! もう白目は御免なので気合いで踏み留まりましたけど……ってそうじゃない!
私は混乱していた。
主様は元が付けど立派な王子殿下。およそ土いじりなどされたことがない身分の方が畑にいて、今まさにトマトを収穫されていた。その事実を頭が受け入れてくれない。
主様は綺麗な動作で立たれると、畑から上がり私の方へと歩み寄って下さる。
場所は変わっても洗練された立ち居振舞いは以前の主様と変わらず、見惚れるほどに美しかった。ご本人であることをこれでもかと見せつけられている。
鋏が鳴り、目の前でトマトが収穫される。手に乗るトマトは赤く食べ頃だ。
見るもの全てが新鮮で、長く見つめてしまう。そのため私に気付いた男性は帽子の下で顔を上げていた。
無言で顔を背けては印象が悪いと、私は自ら話しかけることにする。
「邪魔をしてすみません。お尋ねしたいのですが、領主様のお屋敷はこの先で間違いないでしょうか?」
「サリア?」
息をのむ気配。それにこの声は……
忘れたことはない。私はこの方にお会いするため、遠くリエタナまでやってきたのだから。
でもここは畑。領主様のお屋敷ではありません。
でも……
「あ、主様!? どうして畑から主様の声が!?」
答えは簡単、目の前にいる男性こそが主様本人でいらっしゃるからだ。
「やあ、サリア。久しぶり」
のんきに挨拶をしている場合ではないと、珍しくも主様を前に反論したくなった。
危うく卒倒するところですよ! もう白目は御免なので気合いで踏み留まりましたけど……ってそうじゃない!
私は混乱していた。
主様は元が付けど立派な王子殿下。およそ土いじりなどされたことがない身分の方が畑にいて、今まさにトマトを収穫されていた。その事実を頭が受け入れてくれない。
主様は綺麗な動作で立たれると、畑から上がり私の方へと歩み寄って下さる。
場所は変わっても洗練された立ち居振舞いは以前の主様と変わらず、見惚れるほどに美しかった。ご本人であることをこれでもかと見せつけられている。