密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「サリア」

「はい!」

 羨む私には、せめてジオンに負けないよう、元気の良い返事をすることしか出来ない。いつかその親し気な輪の中に自分も入れることを夢見て……。

「君と離れてから俺は反省した」

「反省、ですか?」

「そう、反省。あれからジオンに言われたんだ。ちゃんと、わかりやすく言えって」

 主様はトマトを持つ私の手を包み込む。温かな手は自分とは違う、男の人のものだった。

 確か似たようなことが以前にも……

 こんな時にセオドアの顔が浮かぶのはあの出会いのせいだ。兄はレモンで弟はトマト。どうでもいいところで兄弟らしさを実感していた。
 けれど私の思い出は主様からの衝撃の一言で霧散する。どうやら陛下の出番はないようです。

「サリア。俺と結婚してほしい」

「はい!」

 主様からのお言葉だ。解雇通知以外で断ることはないだろうと、私はつい了承してしまったのですが……

「結婚!?」

 一拍置いて事の重大さに気が付いた。
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