密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「でも君は、難しいかもしれないけど、自分の幸せを考えてみてはくれないか」

「自分……私の、幸せですか?」

 呑み込めなかった言葉をそのまま繰り返す。

「そう。君は女の子なんだ。それもまだ十七歳のね」

 はい。聞きましたか!?

 我らが主は密偵の年齢も詳細に把握していてくれるのだと、サリアはまたしても声高に叫びたくなった。
 些細なことがたまらなく嬉しい。そんな人だからこそ、これからもそばにいたいと願うのだ。

 けれどルイスの願いはサリアとは違う。

「今からだって遅くはないよ。恋をして、幸せな結婚をすることだって出来る。ね? 一度冷静になって考えてみてはくれないか」

「……どうして、ですか」

 恋?

 恋というのなら最初から叶うはずのない恋に身を置いている。

 ルイスと出会ってから、どれほどの時間が過ぎただろう。

 時が経てば経つほど。重ねた年月が増すほど、ルイスへの想いは募るばかりだった。

 憧れ、尊敬、敬愛、恋情、いずれの感情もルイス以上に抱ける相手は存在しないだろう。

 無論、おこがましくも手の届く存在だとは思っていない。だからこそ、せめてそばにいたいと願うのだ。役に立つことで、せめてそばにいることが許されたらと思う。

 その相手から、ついに別の生き方を見つけてほしいと言われてしまった。
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