密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「うわあーん! ジオンの馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿ぁー!」

「止めとけ。いくら俺を罵ったところで現実は変わんねーぞ」

「そうですね。かくなる上は私の力を駆使してセオドア殿下の弱みを握るしか!」

「それこそ止めとけ。お前だってわかってんだろ。俺らの主がそれを望まないことくらい」

 反論出来ない私は押し黙る。

「ならジオンは私に諦めろって言うんですか!? 主様のように、今更私に、普通の女の子みたいに生きろと!?」

 前世でも。生まれ変わっても。私は仕事一筋だった。

「んじゃ、真面目な話な。職場の同僚として、人生の先輩として、アドバイスしてやる」

「同僚だと思っていたら実は敵だった人にアドバイスとかされたくないんですけど」

「上司の有り難い言葉として聞いとけ」

 職場の同僚とはいえ、どちらが上かといえばジオンが上、すなわち上司と呼べなくもない。悔しいことに上司命令には逆らえないらしいのだ。

「俺は、まあその、抜け駆けみたいな真似をしたのは悪かったと思ってる。悪かった。謝るよ」

「謝るくらいなら私にその地位を明け渡しなさい」

「だから悪かったって! 俺も焦ってたんだよ。このままじゃお役御免だってな」

「はあ!? 私はお役御免になりましたけど!」

「だから! 俺はてっきり最初からルイス様はお前を連れていくつもりだと思ってたんだ。置いて行かれるのは俺だけだってな!」

「あの、さっきからなんですか。私への当てつけですか? 喧嘩なら買いますけど」

「いいから聞け! そしてナイフは下ろせ!」

 普段は温和な私だけれど、主様が関わると一転、好戦的にもなってしまう。
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