密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「よければ聞かせてくれないか。なんでまた……あ、いや、どうして料理人を志そうとしたのかな?」

「はい! 実はジオンのおかげで気付くことが出来たのですが」

「え、俺ぇ!? ちょっと待て俺を巻き込むな!」

 恐るべき速さでジオンが反応する。そんなジオンを、私は久しぶりに穏やかな心で振り返ることが出来た。
 このところは憎しみの感情ばかり、怒りでこの人のことをどうにかできたらと大人げないことも考えたりしたけれど、最終的に道を示してくれたのはこの上司だ。

「ジオンたら何を遠慮しているの? ジオンが教えてくれたんですよ。優秀な密偵たる者、自ら主の望みを探り出せって!」

「だめだこいつ根っからの密偵すぎる……」

 ジオンが項垂れる。
 主様はにこにこと、まるで張り付けたような笑顔を浮かべていた。

「へえ、そうなんだ。ジオンが」

「いや、違うんですよルイス様! 誤解なんです!」

 ジオンは叫ぶが、主様はまるで聞いていないかのように頷く。ジオンは必死に主様へと食い下がっていた。

「ジオン、この後残ってもらえるかな。君とはじっくり話さなければならないことがあるようだ」

 それは決定事項としての通達だ。ジオンは青ざめているけれど、主様のそばにいられるなんて私にとっては羨ましい限りなのに!
 放っておけばまたしてもジオンに嫉妬しそうなので、私は気を取り直して主様に向き直る。
 最愛の人の前で、出来ることなら不機嫌な顔は見せたくない。それに私にとって主様からの質問に答えることはジオンに嫉妬するよりも大切な、優先事項だ。
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