密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「サリアだっけ? よろしくね。あたしのことは気軽に先輩と呼んでいいわよ! というか呼んで。わからないことがあったら何でも聞いね」

「ありがとうございます。先輩」

 円滑な人間関係を築くため、私は先輩の要望に快く応えた。
 カトラは勤務態度は真面目だが少々大雑把なところがある女性だ。片付け担当でありながらその仕事は雑と言われている。

「おい新入り。さっそく皮剥き頼むぜ」

 料理長は名乗ったにも関わらず私の名を呼ぶことはなかった。まるで知らないとでも言うように新入りと呼び続ける。
 人によっては軽んじられているようで嫌うかもしれないが、私は別に気にしてはいなかった。
 いつかは私の実力を認めさせ、サリアという名を心に刻ませてやろうと、むしろ野望に燃えている。そうでなければ未来の主様の専属料理人にはなれやしない。

「はい! すぐに」

 私は速やかに野菜たちのところへ向かう。
 そういえば、元気の良い返事が大切だと最初に教えてくれたのはジオンだったか。なんだかんだと、最後まで世話をかけてしまった相手だ。
 主様の紹介とはいえ、私はジオンの親戚という身分で働かせてもらっている。料理長とジオンは仲が良いので、その方が何かと便利だろうからとジオン自ら申し出てくれたのだ。
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