密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
女神の憤り(モモ視点)
 あるところに運命を守る女神がいたわ。
 運命は時に狂う。その流れを正し、帳尻を合わせるのがあたしたちの役割。
 何年も何百年も、何千年と同じ仕事を繰り返してきた。そんな時、不意に言われたの。お前は働き過ぎだってね。気分転換と、地上の調査も兼ねて人間界への転生を進められたわ。
 運命に身を投じることで得るものもあるかもしれない。こうしてあたしの代わり映えのしなかった生活は終わりを告げた。

 あたしは抱えていた世界の案件を妹に託し、転生先として見目の愛らしい犬を選んだわ。
 両親は共働きで忙しそうな家庭だったけど、愛情に溢れた夫婦よ。
 優しい笑顔で包み込んでくれるおばあさん。
 そして頑張り屋で、しっかり者の、可愛らしい女の子の暮らす家だった。

 愛される犬としての生は幸せなものだったわ。
 ところがある日、大好きな女の子が死んでしまったの。

 とても信じられなかった。女神である私は運命を見ることが出来る。その力を使えば、あの子の運命はまだ続いていたのよ。今日明日で尽きるようなものじゃない。

 運命は時に狂うもの。

 それはあたしが誰よりも知っている。

 狂った運命。
 だとしたらあの子はこの世界の理から弾かれ、別の世界に転生させられてしまう。
 あたしがあの子の知らせを聞いたのは何時間も時間が経ってからのことだった。急がなければ転生させられてしまうと、精神だけを飛ばしてすぐに神界へと向かったわ。
 久しぶりに訪れた故郷だけど、形振りかまわず犬の姿で神殿を爆走。すれ違う者たちは迷いこんだ犬を保護しようと近付いてきたけれど、あたしの気迫に押されて道を譲ってくれた。
 勢いのまま重厚な扉にタックルし、室内に飛び込めば案の定……
 妹がぐうたらとソファーにしなだれていた。

「もおっ……誰ですかぁ~静かに寝かせてって、言っておいたんですけど~」

 気だるげな反応が私をイラつかせる。

「キャンキャンキャン!」

 あたしは妹の前に回ると激しく吠えてやったわ。

「あらぁ、プリティなわんちゃん。でも駄目ですよ~勝手に入ってきちゃ~」

 両手で抱き上げられたので反動をつけて後ろ足で蹴りをかました。

「ぎゃうっ!」

 強烈な一撃は見事に決まり、妹は悶絶している。
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