密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 後悔に苛まれていた俺を現実に引き戻したのは不思議な音だった。
 俺たちが乗る馬車の天井は手を伸ばせば届く高さだが、そこに何か固いものが当たったような音がする。
 同じように異変に気付いたジオンが御者んだ。

「おい、何かあったのか?」

 訊ねると、御者は困ったような声で判断を仰ぐ。

「それが、屋根に鳥が……。先ほどから追い払っているのですが、頑なに動こうとしないんです」

「鳥?」

 俺はジオンを押しのけて身を乗り出していた。屋根を見上げたところで白い鳥と目が合う。

「君は、まさかサリアの?」

 この鳥がいつもサリアを見守っていたことには気付いていた。何故知っているのかといえば、サリアを見ていたのは俺もだからね。同じ目的の相手とは必然的に目が合うに決まっているだろう。
 鳥は俺の言葉に答えるように翼を上げる。まるで人間が「やあ!」とでも言っているようだ。

「サリアはいいのかい?」

 鳥は仕方ないとでも言うように身を竦める。

「今日は俺のことを見守ってくれるのかな?」

 鳥は頷いた。まるで意思疎通が出来ているようだ。

「ルイス様、いかがなさいますか」

「このままで構わないよ。頼もしい護衛のようだからね」

「ああ、白い鳥は神の使いといいますからね」
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