密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「すみません、私……余計なことを聞いてしまって」

 家族がいないと言ったから? リーチェさんの声が沈んでいる。だとしたら余計なことを言ってしまったのは私だ。

「余計なことだなんて思いません。私、こうしてお話し出来て嬉しいんです。おかげで寂しさが紛れました」

 私にはこれまで仕事以外で気軽に話せる相手はいなかった。その主様も、悔しいけれどジオンもいない。リーチェさんのおかげで私は一時さびしさを忘れることが出来た。

「ここが私の家です」

「ここって……」

 到着を告げると、リーチェさんは私の家と道路を挟んだ向かいを交互に見比べる。

「私の家も、ちょうど向かい側みたいです」

 凄い偶然だとひとしきり驚いた後、お互いに声を上げて笑う。
 さらにリーチェさんは素晴らしい提案をしてくれた。

「サリアさんっ! 荷物運びはすぐにでも終わりそうですし、これからうちに来ませんか!?」

 そんな誘いもあって、私はリーチェさんの自宅、もとい料理長の自宅にお邪魔することになった。ちなみに料理長も実家通いだ。
 リーチェさんのお母様は優しそうな人だった。父親は、あえてもう一度言おうとは思わないけれど。
 リーチェさんはお客様だからと私を座らせ、パンケーキを焼くと言ってくれる。しかしそのようなことを言われては私も黙ってはいられない。

「よければ私にも作り方を教えてくれませんか?」

 素直に教えを乞いました。
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