密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「そういうものを一つ決めて、そこからメニューを考えていくの。寒い日だったら温かいものとか、そんな感じね。あとは……そうだ! もう一度出掛けることになるけど、買い物に行かない? 一緒にご飯を作るりましょうよ」

 ぜひにと頷いた私が案内されたのは野菜を扱う店だ。何か作りたいものがないかと聞かれた私は、とっさに野菜で身体が温まるものと、主様の好みを伝えていた。
 そんな私の願いから、夕食には野菜たっぷりのスープが並んだ。

「サリアの作ったスープ、美味しかったよ」

 リーチェの笑顔を見ていると、私の胸はあたたかな心地になる。ほかほかと、身体の内側から沸き上がる感情はりリーチェが教えてくれた。

「誰かに美味しいと言ってもらえるのは、とても素敵なんですね。ありがとうリーチェ。リーチェのおかげで知ることが出来た」

 仕事を認められるのはもちろん嬉しいけれど、厨房で誰かに褒められるのとはまるで違った。

 夜も更け、料理長が帰宅すると、当然ながら盛大に驚かれる。
 家族の団らんを邪魔してはいけないので早々に立ち去ろうとすれば、料理長がわざわざ扉の前まで見送りにやってくる。厨房では大声で指示を飛ばす人なのに……?

「リーチェに聞いた」

 料理長は何をとは言わない。それは私の家族のことか。あるいは料理のことか。それとも両方か。いずれにしろ、料理長は私に何か言いたいことがあるらしい。

「その、なんだ。いつでも来い。お前、家近いんだろ?」

 照れ臭そうにそっぽを向きながら告げる。

「そうなの! サリアね、お向さんなのよ」

 割り込むリーチェに「本当に近いな!?」と料理長は驚きの声を上げていた。
 リーチェという頼もしい先生が誕生したことによって、私は王城のレシピだけでなく一般家庭の味も習得を進めることになった。
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