密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します！

「それで？　お前はどうする。私に寝返るか？」

「陛下？」

　どうするとは？
　何を聞かれているのか、まったく理解が出来ない。
　そんな私をとんでもない発言が襲う。

「お前、ルイスの女だろ」

　はい！？
　それは侵入者から襲撃を受けた以上の衝撃だった。

「陛下、何をおっしゃるのですか？」

　口調はしおらしく取り繕ってはいるけれど、内心では「この人何言ってんの！？」状態ですよ！

「街でお前を見かけてから、どこで会ったのか、ずっと考えていた」

　いや、そこは忘れましょうよ！　もっと他に頭を使うことありますよね！？

「初めはお前の言うように城内で姿を目にしただけかとも思ったが、昨夜の動きで確信した。お前、以前ルイスが連れていた女だろう。確かあの時は、仮面で顔を隠していたな」

　私は極力冷静であるようにつとめた。
　確かに覚えている。でもあの時は陛下の言うように仮面をつけていた。素顔はばれていないはずだ。
　私は必死に焦りを隠しながら答える。決して顔や態度に出すわけにはいかない。

「陛下、私にはお話の意味がわかりません」

「おおかたルイスが内情を探るために残したのだろう。嗅ぎ回られて困ることはないが、しかし奴の手駒というのは目障りだな」

　私は無関係を主張すた。しかし陛下は聞く耳を持たない。
　沸き上がる苛立ちは容易く正体を見破られてしまった自分へのものか。あるいは陛下に対する敵対意識がそうさせるのだろうか。

「ああ、その目だ」

「目？　目ががどうかしましたか？」

「お前の眼差しはいつも鋭い。あの時も、今も、私が憎くて仕方がないという目をしているな。すぐに気づいたさ」

　確かに私がこの方に視線を向ける時、眼差しには敵意が混じるに決まっています。それを陛下は正確に言い当てて見せた。たったそれだけのことで気付いたと言うのですか！？
　私は最後まで認めずにいたけれど、きっと陛下は確信している。
　思わず二度目の転職を覚悟した私だけれど、解雇されることはなかった。
　下がれと命じられた私はひとまず部屋へ戻ることにする。ここで不審な行動をとっては敵の思うつぼだ。