密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 でも、どうして私は解雇されなかったの?
 考えたところで陛下の真意は掴めない。
 もっと確実な証拠を掴むため泳がせている? いいえ、陛下は確信している。敵であると判断したのなら問答無用で私を追い出す。それがセオドアという男だ。かつて私の主がその犠牲となったように。
 私を城に残すメリット……私から主様の情報を引き出そうとしている?
 生憎ですが、それは無理な話ですよ。私はあの女性の人のように主を裏切ることはありません。
 そもそも私が知る主様の現在についての情報はないに等しく……物理的に無理!

 なんだか疲れた……

 激しい疲労を覚えた私は部屋に着くなりベッドへ倒れ込む。口を開くことも億劫で、疲弊しきったた表情で外を眺めた。
 そんな私の疲れをかき消す知らせが舞い降りる。

「さーちゃん!」

「モモ!?」

 窓辺に現れたモモの姿に飛び起きる。

「あたしよ、あたし! 帰って来たわ!」

「モモ、お帰りなさい!」

 懐かしい姿に私は窓を開けて歓迎する。モモが無事に戻ったということは主様も無事ということだ。

「遠くまで無理をさせてごめんね」

 リエタナまでの道のりを考えれば気軽に行き来することは難しい。けれどモモは軽く言い放つ。

「いいのいいの。さーちゃんの頼みならお安いご用よ! でも人間て不便ね。あたしならこの翼でひとっ飛びなのに、人間はのんびり山を迂回して何日もかけなきゃいけないなんて。鳥を選んで正解よ」

「そうだよね。遠い、よね……」

 主様に危険が迫ったとしても、すぐに駆けつられない距離がもどかしい。
 不安が顔に出ていたのかモモは私を慰めてくれた。

「さーちゃんてば暗い顔! 安心なさい。王子様たちは無事よ」

「モモ、本当にありがとう」

「さーちゃんに喜んでもらえたなら転生したかいがあるってものね! それにしても今日は随分と疲れた顔ね。あたしが留守の間に何かあったの?」

 私は泣き出しそうな心境で事情を話した。
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