密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「料理長、私に提案があります」

 厨房に戻るなり、私は料理長に意見する。
 陛下の真意がどこにあるにしろ、そんなことは関係ない。私はただ、あの厨房で働く人間として職務を全うするだけです。
 私にしか出来ないことがある。これでも私は転生者だ。この世界の人達が見たことのない、趣向を凝らした料理を提供すればいいんですよね?
 お任せ下さい。陛下が見たこともない晩餐を用意してさしあげます。あの人の無茶ぶりに屈するのも嫌ですからね!

 ――と、そんな気持ちで張り切りすぎてしまいました。

 私が提案したのはこの世界では珍しいビュッフェ形式。たくさんの料理の中から自分の好きな物を好きなだけ食べられるというものだ。
 厨房の料理人たち総出で調理をすれば、圧巻の品数がお客様を出迎える。
 かといって尊い身分の方たちだ。ご自分で料理を取ることに躊躇いもあるだろう。そのためにテーブルごとに料理を取り分ける係をつけた。
 扉が開けば無数の料理が客人たちを待ち構えている。色鮮やかに、それはキラキラと光り輝いてさえいた。たくさんの品が並ぶ会場は、それだけで人を楽しませる華やかさがあるだろう。

 結果としてビュッフェ作成は成功した。これが私のしでかしてしまった罪である。
 その功績を称えられ、私は現在陛下から呼び出しを受けていた。
 料理長!? 私のことは言わなくてよかったんですよ!?
 そう詰めよれば、手柄を横取り出来るかよと言われてしまった。真面目なことは良いことですが、ここは黙っていてほしかったです、本当に。

「そう嫌そうな顔をするな」

 名乗り出てさえいなければ、嫌いな人に顔への指摘を受けることもありませんでした。

「申し訳ありません。これが通常の顔です」

「警戒せずとも、私は褒美を取らせようと呼んだだけだ」

 どうやら想像以上にビュッフェは好評だったらしい。陛下の望みを叶えたことは癪だけれど、お客様たちが喜んで下さったことは素直に嬉しかった。
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