身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 常務取締役という役職についてからは、感情を顔に出さないように努めている。しかしながら、近頃それが上手くいかないときがある。
 スマートフォンの画面を指でスクロールしながら、不機嫌を眉間の皺という形で滲ませていた。
 ずらりと並ぶ着信履歴に、琴音の名前は数えられるほどしかない。

 仕事が忙しいとは聞いていた。たまに電話で話すときの声も、仕事に急かされていたり逆にひどく疲れて聞こえたりするので、それが嘘ではないのはわかるのだが。

 ――結婚が決まれば、もう少しこちらに意識を向けるかと思った。

 今夜も彼女からの着信は鳴りそうになく。

「……常務。そんなに見つめても彼女からの着信数に変わりがあるわけではないですよ」

 助手席に座る男が後部シートを振り向き呆れた声をかけてくる。秘書の津田だ。

「津田」
「なんでしょう」
「……もしかして、彼女は私と結婚したくないのだろうか」

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