身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
彼女の家に着けば、まだ帰っていなかった。夜の八時だ。案の定だ、とため息を吐く。連絡を入れようかと思ったが、仕事でいっぱいいっぱいの琴音に家の前まで来ていることを伝えてしまえば、余計に負担をかけそうだった。
――会社の前で待っていればよかったか。
しかし、ここまで来てしまったのだから仕方がない。
じっと家の前に居ても仕方がないし、何か飲み物でも買いに行こうとその場を離れる。最寄り駅との間にあるスーパーに入って、結局コーヒーを買うだけでなく幾つか食材をカゴの中に放り込んだ。
彼女が食べて帰っても、それならそれでいいのだが。なんとなく、ただぐったりと疲れた彼女の姿が思い浮かんでしまう。
――俺は結構、尽くすタイプだったのかもしれない。
カゴの中を見ながら、そんなことを思う。
家の前で待っていれば、彼女が帰って来たのは夜九時を過ぎた頃だった。足音が聞こえてそちらに目を向ける。
「良かった! ちゃんと返事してた!」
「何が良かった?」
ちっとも良くないぞ。と、暗くてもわかってしまう彼女の顔色の悪さに、思わず出た声は低かった。
「え……? 閑ちゃん?」
呆けた顔で、懐かしい呼び方をしてくれた彼女に、ほっこりと心は和む。うっかり絆されそうになってしまうが。
いや、ここで絆されてはいけない。彼女にも彼女の会社にも、色々と物申したいことがある。