身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 しかしながら。

 ――俺は、彼女に弱いらしい。
 ということに、閑は気が付いてしまった。会って早々「閑ちゃん」呼びをされたことで、仕方ないなと緩みかけた頬を引き締め、わざと表情を硬く保とうとする。

 仕事中と同じだ、何も変わらない。そのはずだ。

 血色のない顔を見て、心配しない男はいない。体調管理が出来てないことを叱らなければと思っていたのに、ころころと感情のままに変わる表情を見ていると、もういいような気がしてしまう。

 そんなろくでもない会社は辞めるべきだ。そう言って、琴音を頷かせるつもりでいたはずなのに。

 結局、頬をピンク色に染めて閑が作った雑炊を食べる横顔を見ていれば、気が抜けた。大したことは言えず多少の小言のみで終わらせてしまう。

 式のドレスや白無垢の話をすれば、嬉しそうに笑って頬を染める。その表情に陰りはなく、閑も胸を撫でおろした。

 ――まあ、いいか。

 彼女がどうにもできないなら、自分がどうにかすればいい。
 幸いにも今はもう子供ではない。幼い頃のように、ただ手を差し伸べるしかできなかった自分とは違うのだから。
 

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