身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
大人になった琴音は、昔より人に頼ることが少し下手で、不器用だ。両親の小言を聞き流すことは上手くなって、その分全力で泣くのではなく、ほんの少しだけ寂しさを滲ませた複雑な笑い方をする。
当面の目標は、まずはまだ戸惑いがありそうな琴音の不安を出来る限り取り除くことと……昔のように遠慮なく閑に頼るようになってもらうことだろうか。
まずは、琴音に閑を婚約者として意識してもらわなければならない。そのためにはきちんと仕切りなおさなければと、ドレスの試着の日に改めて婚約指輪を贈ることにした。結婚指輪の準備のこともあり、早めにサイズを聞き出しておいて正解だった。
琴音も時間的に余裕が出来れば、心にもゆとりができたのだろう。まだぎこちないながらも、彼女の方も打ち解けようと努力をしてくれているのが伝わる。何より、照れたときに見せる笑顔がまるで花が綻ぶようで、それを見るたびに何とも言えない愛おしさが湧いて来る。
これは、子供の頃に彼女に抱いた感情に似ているようで、少し違う。そう気が付いたのは、ドレスの試着を終え食事の更にあと、指輪を贈ったときだった。
必要なもので、贈って当然のものだからそれほど意識して用意したわけではなかったのに。
――ドレス姿を見たせいだろうか。
どこか頼り無げな、細いドレスの背中を思い出す。閑が言葉をかけるまで自信なさげに背中を丸めていた。あの姿を見れば、自分が守らなければという意識が強くなる。