身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「琴音?」
返事のない琴音に催促するようにもう一度名前を呼ばれ、ずっと両手で顔を覆ったままでいた琴音は、仕方なくゆるゆると振り向いた。手を外して目を開ければ、優しい黒い瞳がすぐ目の前で、琴音を捉えている。
「どうした?」
目が合って、甘く蕩けるような微笑みを向けられる。やはり夕べの閑は夢ではなかったらしい。
「……なんでもない、です。閑さん」
なんでもないことはないのだが。死ぬほど恥ずかしい。
閑は、琴音の言葉にくすりと笑い目を細める。朝の爽やかな空気に似合わない、妖艶な微笑みに嫌な予感がした。
「もう、夕べみたいには呼んでくれないのか?」
「え?」
「閑ちゃん、って。縋り付いて可愛かった」
そう言いながら、閑の手がすっと腰の辺りを擽った。
「ひゃ、あっ」
指先でからかうように肌を擽って、びくびくと跳ねる身体をもう片方の腕は抱きすくめてしまう。
「呼んで、ほら」
「やっ、あん、くすぐったいっ」
呼べない、あんな状況で呼んでしまったあとでは尚更……!
閑は真っ赤になる琴音を抱きすくめ、腕の中でからかって、それからまた、唇と言わず唇が届く範囲のあちらこちらに口づける。
「まあ、夜だけ聞ける呼び方というのもいいかもしれないな」
そう言いながらずっと琴音の肌をまさぐり続ける閑に、琴音は呆然とした。
――閑ちゃんが、なんか、チガウ……!