身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

【閑side】

【閑side】


 閑にとって、琴音の妊娠は本当に驚きだった。勿論、できればいいと思っていたし、いつできても困ることなどない。

 だが、これほどあっけなく出来るものだという意識がなかったのだ。母親から、自分を身籠るまで辛い思いをしたことを散々聞かされていたし、その後随分長い間、二人目を周囲から望まれているのに出来ず、泣いているところを何度も見た。だから、いつかできたら嬉しいと思うし出来なければそれはそれで構わないと思った。

 自分は、あんな風に琴音を苦しませたりは絶対にしない。周囲にもさせないと決めていた。
 だからだろう。琴音の体調不良が、妊娠によるものだとは欠片も思っていなかったのだ。本当に心配だったし、何か悪い病気ではないかと気を揉んだ。

 恋や愛で成った結婚ではない。そもそもそんな感情を認識したことがこれまでなかった閑にはわからない。それでも琴音が自分の中ではどこか特別で、再会してから日々募る温かい感情は確かにある。
 そして琴音も、祖父同士の古い約束に縛られた結婚に戸惑いながら、それでも閑を受け入れてくれたのだ。
 絆をゆっくり深めていけばいい。琴音もそう思ってくれている。そんな彼女を大切にしないわけはないし、例え子供ができなくても生涯彼女だけだと誓っている。

 それが、まさかの妊娠だ。自分たちは、相性も良かったのかもしれない。

 驚きすぎて呆けて、散々喜んだあとは、浮かれた。わかりやすいくらい浮かれているらしい。秘書の津田が言うには。妊娠がわかってひと月以上が過ぎ、安定期に入ってもそれは続いていた。

「ほんっとうに頼みますから。そろそろ通常運転に戻ってくださいよ」
「……別に、いつもどおりだ」
「どこがですか、どこが。いくら休憩中だからってスマホばっかり見ないでください」

 マタニティ用品や妊娠期間中の他人様のブログを覗き見していることは、どうやらバレバレだったらしい。
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