身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 津田はもうこの件に関して何度目かわからないため息を吐く。

「先日、常務が忘れた書類を私が取りに向かいましたが……あの時、奥様がおっしゃってましたよ。常務が心配だと」

 津田の言葉に、ぴくりと瞼が反応する。先日、確かに大事な書類を自宅に忘れるという間抜けな失敗をしてしまい、散々「そら見たことか」と津田に小言を言われながら、取りに行ってもらった。その時に、どうやら琴音と何か話をしたらしい。聞いてない。

「妊娠が嬉しくて浮かれているだけだから問題ありません、と申し上げたんですけどね。そうではないとおっしゃって」
「どういう意味だ?」
「結婚してから、常務が奥様のことばかり気に掛けるから、無理をしているのではないかと心配なのだそうです」
「無理? どうしてそうなるんだ」

 津田は、話した時のことを思い出そうとしているのだろう。視線を宙に彷徨わせている。

「新妻が可愛らしくて束縛したいだけですよ、と言ったら笑ってましたが聞き流されましたね」
「束縛はしてない」
「してますよ。奥様の全部の時間、自分が知らないと気が済まないくらいに。そうでないと友人と飲みに行っている店まで頼まれもしないのに迎えに行かないかと」
「夜道が危ないだろう」
「子供じゃないんですから」

 何を言っても呆れたような声で言い返され、閑は頭を抱え込んで机に突っ伏した。本当は、自覚がある。必要以上に構ってしまっていることはわかっている。ぐう、と唸り声をあげて降参していると津田が言った。
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