身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「……十分」
「なんだ?」
「十分で良ければ、恋愛相談をお受けしますよ。それでまともに仕事をしてくださるなら」
「……恋愛」
「今から恋愛するようなものでしょう、常務と奥様は」
「すでに夫婦なのに?」
「先に夫婦になってしまったから、今からなんじゃないですか」
そういう、ことになるのか。抱えていた頭を上げ、身体を起こして椅子の背に凭れかかる。とんとんと指で机の天板を叩きながら、閑は結婚してからこれまで、何度となく思うことを口にした。
「……琴音が、時々、ひどく複雑な顔をする」
津田から相槌も返事もない。先を話せということだろう。
「結婚生活は嫌そうじゃないんだ。幸せそうに笑ってくれるし、照れたり怒ったり表情豊かだ。なのに不意に、寂しそうに笑う。いや、不安そうに、か」
ふとした折に滲み出るそんな弱々しい色を閑は感じ取るのに、何をしてやればいいのかわからない。
「不安を消してやりたくて出来る限り話をするし、側にいるようにしている。ただ束縛したいわけじゃないんだからな」
「はいはい、束縛には理由があると」
「子供の頃と違って、今なら出来ることがたくさんあると思っていたんだがな」
頬杖をついて、昔を思い出す。あの頃の方が、閑に向かう笑顔は憂いがなかった。
「人を守るというのは難しいな」
それをつくづく実感しているところだった