身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「食べたいだけ食べろと言ってやりたいところなんだがな」
閑が苦笑いをしながら、ポケットからローカロリーの飴をひとつ取り出した。個包装を破いて、指で琴音の口元に持ってきてくれる。少し開くと、指先で口の中に押し込まれた。グレープフルーツ味の、最近お気に入りのやつだ。
この頃、閑には恥ずかしいところばかり見られている。どうしても、どうしても夕食のあとにまたご飯が食べたくなり、茶碗を持って炊飯器の前でうんうん唸っているところを、風呂からあがってミネラルウォーターを取りに来た閑に目撃された。
それから二度目は最悪だった。夜中に目が覚めてどうしても空腹で眠れず、こっそりとベッドを抜け出しキッチンで焼き海苔をむしゃむしゃ食べているところを見つかったのだ。
海苔なら、身体にいいと思ったのだ。カロリーもほとんどないし、味付けしてない海苔であれば塩分も少ない。バリバリとした食感で少しは食べた気になって、満足できるかと思ったのだ。
暗がりの中で、スマートフォンの小さい灯りだけで無心に焼き海苔を貪っているところに、閑が現れた。ベッドからいなくなった琴音に気づいて、探しに来たのだろう。
「……琴音?」
ぽかん、としている閑と目が合って、琴音は海苔を咥えたまま固まった。数秒見つめ合ったあと、琴音はゆっくりと口から海苔を外す。あまりの恥ずかしさに目頭が熱くなった。